白い菫が紫色に染まる時
「そんなこと・・・・、」
「菫と連絡がとれなくなって、すぐに菫の母さんとこ訪ねてさ、菫は大丈夫ですか?って聞いたら、菫が書いた手紙見せてくれて・・」

母親には心配かけないようにと、せめてもの償いのつもりで送った手紙のことを白澄は言っているのだろう。

「それ読んで、とりあえず何か事件に巻き込まれたわけじゃないってわかったから安心した。けど、その時に確信したよ。俺の知らないどこかで菫は生き続けるつもりで、もうこっちには戻ってくるつもりはないんだって。菫が旅立つ前に感じてた予感が当たっちゃったなって」

彼のこの真っ直ぐな瞳に見つめられると、心の中を見られているような気持ちになる。
きっと、私が何を言っても、彼には本当のことがばれてしまうのだ。
今までもそして、今も。

「確かに、そっちに戻るつもりはなかったし、これからも戻るつもりはない」

私は彼の視線に答えるように、向き合わなければと彼の目をじっと見つめた。
私がそう返した時、その真剣な彼の瞳が微かに揺らいだ。

「でも、白澄とか陽翔とは永遠に縁を切りたかったわけじゃない。成り行きで一時的にそうなってただけ」
「そっか・・・。ごめん、なんかきつく言い過ぎたかも」
「いや、悪いのは私だから」

二人とも、同時にコーヒーを口に運んだ。

「そういえば、菫はコーヒー飲めるようになったんだな。前は苦いのダメだったじゃん。それで、よくお汁粉を飲んでた。懐かしいな・・・・・」

あの場所にいたころは、ずっと雪が降っていたから。
私も毎日のようにお汁粉を飲んでいた。
今でも雪が降る日には飲みたくなる。

「一緒に飲んだよね。チーズ工場で」
「あ、あの雪合戦した日だろ。菫がお汁粉の小豆を一つ残らず飲もうとしてたの覚えてるよ」

そうだ。勿体ないなどと言って、コーヒーのティースプーンを使って全部拾って食べていた。
すっかり忘れていた。こちらに来て、何度かお汁粉を飲んだけれど、その時は気にせずに捨ててしまっていた。

「今、思い返すとなんか恥ずかしいね」
「そうだな。色々と元気だったよね、あの時は」
「うん」

私は久しぶりにあの雪景色を思い返していた。
自分一人だったら、振り返ることなどしないのだが、今日は白澄と一緒だから。
昔の話をしているから。
脳内に鮮明にあの場所の景色が浮かび上がる。

「そういえば、どうなの?仕事の方は」
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