白い菫が紫色に染まる時
けれど、白澄が悲しそうに見えたのも、私がこんなにも胸が締め付けられたような気がしたのも、道に沿っている店の光が照らす、少し哀愁漂う夜の表参道の雰囲気に吞まれたのだろうと、自分に言い聞かせ、心に抱いた何だかわからない感情をなかったことにした。

表参道の駅で白澄と別れた後、また私は電車に二十分ほど揺られた。
休日の夜の東京の電車は遊び帰りの楽しそうな学生で溢れている。
平日の仕事疲れしている大人たちでぎゅうぎゅう詰めになっている満員電車とは同じ人混みでも、空気の重さが違う。
だから、余計に今の私はこの空間の中に一人だけ沈んでいるように思えた。

最寄り駅に着き、ロータリーへ向かうと黒の車が駐車されているのを見つけた。

「ありがとう。迎えに来てくれて」
「どういたしまして」

私は彼の助手席に駆け込んだ。
私がシートベルトを付けたのを確認して車は発進した。
「どうしたの?」            
「え?」

彼は視線を前に向けたままで、運転しながら尋ねてきた。

「なんかあった?ちょっと元気なく見えるから」
「なんもないよ。ちょっと、久しぶりにキラキラした活気のあるところ行って疲れたのかも」
「ならいいけど・・・・」

蓮くんは鋭い。すぐに、人の変化や心の揺らぎに気づく。
私が否定したからか、深くは聞いてこないけれど、何かあったことを確信しているだろう。

「そんなことより、明日は夕飯何がいい?」
「あ~、久しぶりに肉食べたい気分かも」
「いいね。すき焼きでもする??」

家に着く頃には明日の夕飯の話に花を咲かせていた。


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