婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった
 ガシャン!と窓硝子が割れる音がした後、悲鳴と叫び声がした。エリオルと足早に声のほうへ向かうと、ヒュッと影が動いた。何かがすごい速さで近づいてくる。
 黒服の男だ。武装しているらしく、右手から銀の刃が閃いた。夜会主催者である伯爵家は資産家として有名だ。鉱山で得た富で豪勢な暮らしをしており、本邸の中には大小さまざまな宝石や貴金属を飾った部屋があると聞く。
 そして怪しい人物が、後ろを何度か振り向く様子から導き出される答えは、ひとつ。

(泥棒さんですわね……!? 勝手に敷地内に侵入した挙げ句、盗みを働くとは!)

 一歩前に出たエリオルが腕を広げ、レティシアの身を隠す。
 それが自分を守ろうとする行動だと頭では理解できても、体に染みついた習慣とは恐ろしいもので、無意識に体が動く。エリオルの腕の下をくぐり抜け、サッと賊との距離を詰める。
 レティシアの今宵の装いは、有事の際に動きやすいようにボリュームを最大限抑えた特注品だ。ドレスの下は補正下着ではなく、大きなフリルが重なったもので代用し、ワンピースのように身軽に動ける作りにしてある。
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