恋愛マスターでイケボな彼の初恋を奪ってしまいました
第一話

推しが同じクラスでした!?

○学校・教室(朝)

授業開始前のざわつく教室内。
知奈はスマホにかじりついて、配信アプリを開いている。
顔出しはしていない配信者「リト」のアーカイブ配信が流れ、その様子を知奈の友人二人が生暖かい目で見守っている。

リト「――じゃあ次の相談。『付き合って三ヶ月になる彼氏が冷たい気がします。倦怠期でしょうか? 怖くて聞けません。リト君はどう思いますか?』」
リト「うーん……態度が急に変わるって寂しいよね。でも、俺は勇気を出して聞くべきだと思う」
リト「責めるんじゃなくて『寂しいから理由を教えて』って感じで聞いたら相手も答えやすいんじゃないかな」

知奈「リト君の回答って本当優しい! 神!」
知奈「ねえ二人も聞こうよ!? 私の推し配信者! 優しいしイケボだよ!!」

興奮する知奈と裏腹に友人たちは苦笑い。

友人1「配信かあ、あんまり興味ないんだよね」
友人2「リト君……だっけ? 悩み相談してる人なの?」
知奈「恋愛専門のね!」
友人2「じゃあ必要ないかなあ……今悩みないし」
友人1「やっぱ推すなら顔のいい人でしょ!」

友人はそれぞれ彼氏の写真、アイドルのうちわをさっと取り出して見せる。

知奈「布教失敗か~」

残念そうな口調だが、いつものことなのでそこまで落ち込んではいない知奈。
逆に友人の推しアイドルの動画を見せてもらって楽しくおしゃべりする。

知奈〈クラス替えしても仲のいい子はできたし、毎日に不満はない〉
知奈〈初恋がまだだってこと以外は〉

アプリからはまだリトの配信が流れている。

知奈「私も相談送ってみようかな……」

呟いたとき、後ろにぬっと人影が。

友人1「ちょ、ちょっと知奈」
友人2「うしろ、うしろ!」
知奈「えっ」

振り向くと冷めた目で頼斗が知奈を見下ろしている。

知奈「篠宮君? な、なに?」
頼斗「……別に」

頼斗はそっぽ向いて自分の席にいってしまう。
早速女子に囲まれているがいつもどおりつんと澄ました態度。

知奈「なんだろう……篠宮君も配信聞きたかったのかな」
友人1「そんなわけないでしょ! 騒がしいから注意しにきたとか?」
友人2「篠宮頼斗君……あんな有名人と同じクラスになるなんてね」
友人1「学校一のモテ男子だもんね。前のクラスの友達から連絡先聞いてきてって頼まれちゃった」
友人2「無理無理。誰とも親しくしないって有名だもん」
知奈「へー……」
知奈(恋愛で苦労することなんてないんだろうな。私とは別世界の人って感じだ)

知奈は感心しつつ頼斗を眺める。



○学校・廊下(放課後)

知奈「日直の仕事で遅くなっちゃった。部活行かないとなのに」

知奈は足早に歩きつつ、スマホで時間を確認。
配信アプリからの通知で、リトの配信が始まっていることに気づく。

知奈「えっ、こんな時間に!?」

慌ててアプリを開く。

リト「――『珍しい時間の配信ですね』? そうそう。たまにはいいかなって思ってちょっとだけ配信するね」
知奈「はぁ~、この優しいイケボが癒やされる」
リト「『リトくんは学生ですか?』 あー、詳しいことは内緒なんだけど、この春クラス替えがあったよ」
知奈「え! 私と一緒だ。じゃあ同い年かも」
リト「学校の名前? あははっ、言えるわけないでしょ!」
知奈「ん? リトくんの声……?」

通りがかった近くの空き教室からリトの声がする。

知奈「誰か配信聞いてる?」



○学校・空き教室(放課後)

頼斗「こーら、もう俺の詮索するの禁止――」

がらっと扉を開ける知奈。
リトの声で話す頼斗と目が合う。

頼斗「っ、ごめん、急用入ったから今日はこの辺で」

声では平静を装いつつ配信をぶつ切りする頼斗。
知奈は呆然としている。

知奈「まさか……篠宮君がリト君……?」

頼斗は怖い顔になって知奈につかつか寄ってくる。そして扉を閉めて壁ドンの格好で詰め寄る。

頼斗「このこと誰かに喋ったらただじゃおかねえから」
知奈「た、たしかに、本当にリトくんの声だ! 無愛想だから全然気づかなかった……!」
頼斗「おい」
知奈「えっ、うそ、すごい、なんで!? 生リト君!? うわあ、感激!!」

一人の世界ではしゃぐが、頼斗が冷たい目をむけているのに気づいて我に返る知奈。

知奈「あ、安心して! 誰にも言わないから!」
頼斗「……ふん」

頼斗は渋々といった感じで、知奈から離れて椅子に座り直す。

頼斗「信じられるかよ。どうせ明日になったら学校中に知れ渡ってる」
知奈「どうして? 私絶対言わないよ!」
頼斗「根拠がないだろ」
知奈(そうだけど……推しの秘密は守るのに)
頼斗「……まあ別に言いふらしてもいいや。どうせもうリトはやめようと思ってたし」
知奈「えっ、引退するの!? なんで!?」
頼斗「それは……」

頼斗は少し迷った後、真剣な顔で向き直る。

頼斗「なあ……恋愛ってなにがそんなに面白いわけ? 恋人がいるってそんなにいいことか?」
知奈「えっ」
知奈(私に聞かれても……)
頼斗「お前はどんなときに彼氏がいて良かったって思うんだよ。きゅんとするって、なに?」
知奈(えええ!? そんなこと言われたって……)
知奈「な、名前呼ばれたら、きゅんとする……かな?」
頼斗「あとは」
知奈「デートするのが楽しい……とか?」

頼斗は盛大なため息をつく。

知奈(そんなのわからないよ~! 私彼氏なんていたことないもん……)

頼斗「そんなことのために恋愛……? 理解できない」
知奈「いやっ、今のは一例というか。篠宮君こそ自分が彼女にきゅんとしたこととか思い出せば――」
頼斗「いねえよ、彼女なんて」
知奈「え……」

知奈(意外。恋愛で困っていることなんてなさそうなのに。篠宮君も恋をしたことがないのかな)

頼斗「だからもうリトに限界感じてるんだよ。愛だの恋だの、知るかっての」

吐き捨てるように言われて知奈はショックを受ける。

知奈(恋愛相談に乗るの、ずっといやだったのかな……)

知奈「それでも……今までリト君に相談した子は救われてたと思う。リト君は背中を押すのが上手だから」
知奈「恋愛ってしたくてするものじゃなくて、恋は突然で……だから相談者の子たちも困ってたんじゃないかな」
知奈(多分……)
知奈「リト君に相談したら勇気がもらえるから、それでみんなリト君についコメントしちゃうんだよ」
知奈「わ、私も勇気をもらってた一人!」
頼斗「ふーん」

知奈の一生懸命な態度にちょっとだけ満足げな表情の頼斗。

頼斗「必死だな。そんなにリトに引退してほしくない?」
知奈「当たり前だよ! リト君の配信が私の日課だもん!」

頼斗、なにかを考え込んでいる。

頼斗「お前……七瀬、彼氏いる?」
知奈(名字覚えてくれてたんだ)
知奈「い、いない……」
頼斗「じゃあ、俺の恋人になってよ」
知奈「へっ!?」
頼斗「恋愛っていいものなんだろ? 俺と恋人ごっこして、教えてよ。恋がどれほどいいものか」

にやにやと意地悪な微笑みを浮かべる頼斗。

知奈「いや、そんな、無理……」
知奈(でも、拒否したらリト君が引退しちゃう? ……そんなのやだ!)

しばらく考え込んでいた知奈は覚悟を決めて、頼斗に向き直る。

知奈「い、いいよ。篠宮君の恋人役、やるよ」
頼斗「へえ……」

少し意外そうな頼斗。

頼斗「引き返すなら今だけど? そんな不安そうな顔して」
知奈「まっまさか! 安心して。私がちゃんと、篠宮君に恋愛教えてあげるから!」

胸を張る知奈だが、内心は不安でいっぱい。



○学校・廊下(朝)

偽恋人になると約束した翌日。
首をひねりながら登校してくる知奈。

知奈(と、言ったものの、彼女ってなにするものなんだろう……)

教室前の廊下では頼斗がいつものように女子に囲まれている。
楽しそうな女子たちと裏腹に、真ん中にいる頼斗はうんざり顔をしている。

知奈(あんなに憂鬱そうにしなくても)
知奈(挨拶くらいしたかったけど、この状況で声は掛けにくいな)

頼斗と目が合い、苦笑いしつつ軽く会釈する。

頼斗「知奈!」
知奈「え……」

教室に入ろうとした知奈を頼斗が呼び止める。
そしてずんずん近づいてくる。

知奈「な、名前……」
頼斗「なんで無視するんだよ」
知奈「いや忙しそうだったから」
取り巻き女子「篠宮君、こっちで話そうよ」

さっきまで頼斗を囲んでいた女子たち、笑っているが知奈に対する視線は冷ややか。

知奈「あ、じゃ、じゃあまたね」

空気を読んで教室に入ろうとすれば、頼斗から肩を引き寄せられる。
そして頬にキスをされる。
 
取り巻き女子「……ぎゃぁぁぁっ!?」
頼斗「無理。俺ら付き合ってるから」

騒然となる女子たちに頼斗はあっさりと言いのける。
知奈は肩を抱かれたまま呆然。一拍遅れて真っ赤になる。

知奈(ええぇぇぇ――――っ!?)


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