恋愛マスターでイケボな彼の初恋を奪ってしまいました
第二話

偽装恋人はじめます

○学校・空き教室(放課後)

頼斗が女子たちの前で恋人宣言した日の放課後。
いつもどおりクールな表情の頼斗と少し怒ったような知奈が向かい合っている。

知奈「なんであんなことしたの!?」
頼斗「あんなことってなに」
知奈「それは……」
頼斗「ほっぺにチューのこと?」
知奈「わかってるじゃん! あのあと大変だったんだからね!」

教室で友人たちから質問攻めにされ、頼斗の取り巻き女子には睨まれたことを思い出す知奈。

知奈「篠宮君、有名人なんだから――」
頼斗「頼斗」
知奈「え?」
頼斗「恋人は名前で呼ぶんだろ」
知奈「う……」
知奈(確かに言ったけど)
頼斗「俺は呼んでるのに。ね、知奈」

頼斗はわざとらしい笑顔を向けてくる。

知奈「うう……」
頼斗「はあ……恋人役やるって言ったのはどうなったんだよ」
知奈「それは……」
頼斗「まあいいや。恋人の良さ、少しわかったから」
知奈「えっ、本当!?」
頼斗「女避けになる。女子たちから追いかけ回されなくなった」
知奈「いいことってそれ?」
頼斗「いいことだろ。実際迷惑してたし」

うんざり顔をする頼斗に知奈は首をひねる。

知奈「わかんないな。人から好かれたら嬉しいものだと思うけど」
頼斗「顔しか見てないやつらの『好き』ってなんか意味あんの」
知奈(リト君がこんな性格だったなんて……)

今までの優しく相談に乗ってくれる配信を思い出す知奈。
理想のイメージががらがらと崩れ去っていってしょんぼり。

知奈「……そんなに女子からきゃあきゃあ言われるのがいやなのに、なんでリト君をはじめたの?」
知奈(そうだよ。恋愛が面倒なのに、恋愛相談してるなんて理由があるんじゃ……?)
頼斗「は? 暇つぶし」
知奈「なっ!?」

あっさり言われて再びショックを受ける。

知奈「で、でも、わざわざ恋愛専門の相談なんて」
頼斗「別に俺が専門家名乗ってるわけじゃない。配信してくうちにそういう相談しかこなくなったんだよ」
知奈「……私もう部活行くね」

理想を打ち砕かれ、知奈は部屋をとぼとぼ出て行こうとする。

頼斗「部活やってんの」
知奈「うん……写真部。今日は校内撮影会なの」
頼斗「ふーん」
知奈「もういいでしょ? 行くね」
頼斗「俺も行く」
知奈「なんで!?」
頼斗「……彼氏だから?」
知奈(絶対暇だからだ!)



○学校・校庭の隅(放課後)

知奈「すみません、遅れましたー!」

写真部の十名弱が集まっている。
走ってくる知奈と後から悠々歩いてくる頼斗。
頼斗を見て写真部員たちがざわつく。

知奈「今日の撮影会、どうしても見学したいって言われて……だめでしょうか?」
部長(おとなしい感じの眼鏡女子。知奈の先輩)「えっ、いや……」
頼斗「はじめまして。知奈の彼氏です」
知奈「ちょっと!」
頼斗「違うの?」

にやりとする頼斗に、知奈はぐぬぬとなって言い返せない。

部長「か、彼氏かあ、彼氏ならしょうがない、うん、自由に見学していってね」
頼斗「どうも」
知奈「すみません、部長。ありがとうございます」
部員「知奈ちゃん、篠宮君と付き合ってるって本当だったの!?」
知奈「いや、まあ、はは……」

部長はキラキラ男子と接することがなくてどぎまぎしている。
部活内の友人(別のクラス)には付き合っていることを驚かれる。

部長「それじゃあ事前の説明通り、時間まで敷地内を自由に撮ってください。写真の選定は後日になります」

部長の一声でみんな散っていくがちらちら見られて気まずい。
写真部はおとなしい感じの部員が多く、目立つ頼斗が珍しがられている。

知奈「篠宮君、あっちを撮りに行こう」
頼斗「うわ」

みんなから離れるように頼斗の服を引っ張る。
頼斗は体勢を崩しつつついてくる。



○学校・校庭の木陰(放課後)

知奈「篠宮君も撮るといいよ。見てるだけじゃ退屈でしょ?」
頼斗「って言われてもカメラないんだけど」
知奈「はじめはスマホのカメラで充分だよ」
頼斗「知奈もスマホ?」
知奈「私はこれ!」

愛用のミラーレス一眼を取り出す知奈。

知奈「動物を撮るのが好きなんだ。校内だとなかなか出会えないけど」

知奈は校庭の外を散歩する犬にカメラを向ける。

知奈「校外撮影だと野良猫がいたりするんだけどね。いつか水族館とかも撮ってみたくて、今度提案しようと思ってるんだ~」

好きなことの話で元気になった知奈は楽しそうにカメラをあちこちに向ける。

知奈「あっ、あっち小鳥がいる! 見てくるね!」
頼斗「あ、おい」



○学校・校庭の花壇(放課後)

飛んでいた小鳥が花壇の前に降り立ち、知奈は気配を消してカメラを構える。

知奈(それにしてもリト君の配信が暇つぶしって本当かな)
知奈(たしかに配信をはじめる理由なんてそんなものかもしれないけど……)
知奈(そもそもなんで私はリト君を推してるんだっけ)
知奈「あっ」

小鳥が飛び立ってしまい追いかける知奈。

知奈「待ってよ~」



○学校・駐輪場(放課後)

校舎の角を曲がると、そこにはちょうど帰るところだった頼斗の取り巻き女子が集まっていた。
知奈はぎくりと硬直する。
女子たちも知奈を見て目つきが鋭くなる。

女子1「七瀬さんて、本当に篠宮君と付き合ってるの」
知奈「いや、まあ……」
女子2「篠宮君がなんでわざわざ七瀬さんみたいな普通の子選ぶわけ」

リトのことを説明するわけにもいかず知奈は苦笑い。

知奈「な、なんでだろうね」
女子1「どうせ罰ゲームとかじゃない? ねえ?」

一人が同意を求めるようにまわりへ視線を向け、女子たちの中に知奈を馬鹿にするような内輪の笑いが起こる。

知奈(あ……)



○(回想)二年前・知奈の部屋(夜)

はじめてリトの配信を聞いたときのことを思い出す知奈。
床に座ってスマホを握りしめ、配信アプリを開いている。

リト「『告白されたのにあとから罰ゲームだったとわかりました。クラス中で笑いものにされてつらいです』か……」
リト「まず、絶対にきみは悪くない。それで笑うやつらが低俗なだけだ」
リト「今は全員が敵に見えるかもしれないけど、そうじゃないやつも絶対にいるから諦めないで」
リト「辛くなったらまたメッセージ送って。何度でも励ますから」

知奈は唇を噛みしめ泣くのをこらえるような顔。リトの回答が心に沁みている。

(回想終わり)

知奈(私、あのときにリト君のファンになったんだ)



○学校・駐輪場(放課後)

知奈「それはないよ」

知奈は真面目な顔。
女子たちの笑いが止む。

知奈「篠宮君はそんなくだらないこと、絶対にしない」
知奈(暇つぶしなんて言ってるけど、あれは嘘だ。リト君の悩み相談はいつだって真剣だもん)
知奈(じゃなきゃ恋人がいるのはどんな感じかなんて訊かない)

一方頼斗は知奈を追いかけて、校舎の曲がり角手前まで来ている。

頼斗(知奈のやつ、どこ行ったんだよ)

頼斗のほうにも曲がり角の向こうからなにやら声が聞こえてくる。

頼斗(知奈?)
知奈「篠宮君は優しい人だよ」
頼斗「!」

思わず動きを止めその場で聞き耳を立てる頼斗。

知奈「冗談でも篠宮君が人を騙すなんて言わないでほしい」
知奈「篠宮君は誠実で、絶対に人の心を弄んだりしない。誰よりも相手のことを思ってる人だもん」

頼斗「なに必死になってんだよ……」
照れを隠すように髪をかき乱す頼斗。

知奈「そりゃちょっと素直じゃないところもあるけど――」
頼斗「知奈、こんなところにいたのか?」
知奈「え……」
女子1「篠宮君!?」

突然の頼斗登場に、取り巻き女子たちは青ざめる。
頼斗はそんな女子たちをぎろりとにらみつける。

頼斗「俺の彼女になにしてんの」
女子1「か、彼女って、なんで七瀬さんみたいなたいしてかわいくもない普通の子……」

頼斗は鼻で笑いながら知奈を後ろから抱きしめる。知奈は真っ赤になる。

知奈「!?」
頼斗「どこが? 目悪いんじゃないの。少なくとも俺は知奈以外かわいいと思えないけど?」
女子1「なっ」
頼斗「知奈が普通なら、一人を囲んでいじめるやつらは最低か? だったら俺は普通がいいけど」
女子1「っ、バカみたい」

女子たちは悔しそうに退散していく。

頼斗(バカはどっちだよ)
知奈「し、篠宮君」
頼斗「ん?」
知奈「ち、近いからっ」
頼斗「……ああ」

頼斗はやっと気づいたようにぱっと腕を放し、知奈は慌てて距離を取る。

知奈「た、助けてくれてありがとう」
頼斗「別に。元はと言えば俺のせいだし」
知奈「……でも、嬉しかったから」
頼斗(変なやつ……)

恥ずかしさから視線を合わせずはにかむ知奈。頼斗は怪訝そうにしている。



○学校・教室(朝)

翌日、頼斗の机の前に行く知奈。頼斗が気づいて顔を上げる。

知奈「おはよう。これ、あげる」
頼斗「なに?」
知奈「昨日のお礼だよ」
頼斗「別にいいって」
知奈「でもあげたかったから」

頼斗がコンビニの袋をあけるといくつかののど飴が入っている。

知奈「あのね、恋人のいいところわかったよ」
知奈「自分一人を見てくれる。味方になってくれる。これってすごいことだと思うんだ!」
知奈「昨日、私の味方をしてくれて本当に嬉しかった」
知奈「だから私もちゃんとリト君……頼斗君のこと、見てるからね!」

満面のキラキラした笑顔を浮かべる知奈。
頼斗は思わず目を奪われる。
そのとき予鈴が鳴る。

知奈「あ、予鈴だ。じゃあまたね」

知奈は自分の席へ戻っていく。
残された頼斗は顔が赤く、それを隠すように手をあてる。

頼斗「……は?」

赤くなっている自分が信じられないといった表情を浮かべる頼斗。


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