モノクロの僕と、色づく夏休み

第6話「山散策」

 オレは、足場の悪い山道を走っていた。

 途中、深みに足を取られ、バランスを崩しそうになる。
 でも少年との体格差や、彼が背負っていた荷物の大きさからいって、絶対に自分の足の方が早いはず。必ず追いつけるはず。

 それだけを考えて、オレは必死に山道を登った。

***

 汗だくになりながら山道を登っていると、前方にあのデカリュックが見えた。

(追いついた!)

「おいコラ、待て!」
 
 オレの大きな呼びかけが辺りに響き、さすがの少年もビクッと足を止めた。

「げっ! なんで着いてくるんだよ! 怖っ! キモ!」

「いいから、止まれ! 戻ってこい! お前みたいなガキが、一人でうろちょろしていいところじゃない! 帰れなくなるぞ!」

「偉そうに! あんただってガキじゃん! 着いてくんなよ! あんたこそ、帰れなくなるぞ!」

 確かにそうかもしれない。でもこんな年下のガキに言われて、オレはイラッとした。

「お前はどうなんだよ! オレよりガキのくせに!!」
「大丈夫だよ!」
「なんだよ、その自信? ガキはみんなそう言うんだ!」
「……」

 急に少年は黙り込んだ。そして妙に大人びた顔付きで、こちらを鋭く見据えてきた。

「……もし、ダメだったとしたら、自分がそれだけの存在ってことだ」

 少年はそれだけ言い捨てると、再び前方を歩き出した。


 大丈夫って、どういうことだ?
 
 もしダメだとしても、それだけの存在って……?

 今まで感じたことのない感情が、オレの胸に去来していた。
 
 それは面倒くさがり屋のオレの本質を、吹き飛ばすほどのものだった。

 オレはその感情の正体を、どうしても知りたくなった。

***

 何度も呼びかけなが、少年を追いかけたが、彼は一度として振り返らず、決して歩みを止めなかった。

 どんな理由があるかは知らない。

 ただこんな小さな子が、重そうなリュックを背負い、ひたすらに山道を登って行く。ただごとではない気がした。大人だって根を上げる。

 確固たる信念が、この少年にはある。

 オレは少年の小さな背中に、その覚悟を感じ取って、声を掛けるのが段々とためらわれて行った。

***

 少年の後を追っているうちに、渓流に出た。
 少年はリュックから水筒を出して、一服ついていた。

 しばらくすると懐中電灯を照らし、再び地図を覗きこみはじめた。
 小さな体には全く似合わない、ごっつい腕時計を睨みつけながら。

 懐中電灯といい、地図といい……あのデカイリュックには、あと何が入ってるんだろう?
 そんなことをボーと考えながら少年を見つめていたら、水筒を握りしめ、「やらないぞ!」という返事が飛んできた。

 そんなにもの欲しそうに見えたか?

 それにしても準備がいいな……。

 きっと他にも、あのリュックには色々入ってるに違いない。

 そう考えると、彼がこの山に入るべくして入ったのだと分かる。

 この山に入るために、明らかに計画を立ててきたのだ、子供なりに。
 これが、あいつが大丈夫と言った根拠なのか?

 この山に一体何があるんだろうと、考えずにはいられなかった。


つづく
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