竜星トライアングル ポンコツ警部のドタバタ日記
 食堂は骨組みだけを残して崩れ去っている。 憐れなもんだな。
鑑識官が走り回っている。 「やあ大森さん。 休憩ですか?」
「ちょっとの息抜きだよ。」 「この事件はなかなかすごいな。」
「何で?」 「テーブル席のほうにも爆弾が仕掛けられてましたよ。」 「寺本だな。」
「寺本?」 「俺たちがずっと追い掛けてる女だよ。」
 「そうか。 そっちはそっちでやばそうだな。」 「おーい、こんな所にジェラルミンのケースが置いてあったぞ。」
トイレが在った辺りから別の監視機関の声が聞こえた。
 芳太郎は食堂を離れて整備工場へ行ってみた。 作業員が工具を持って歩き回っているのが見える。
「ここであの車を塗り替えたわけか。」 その一角に青いクーペが止まっているのが見えた。
 彼が歩き始めるとその後ろに鉄の棒が落下してきた。 「危ないなあ。」
しかし、その様子をじっと見詰めている黒マスクの男が居たことに芳太郎はまだ気付いていなかった。

 署に戻ってくると捜査員たちは相変わらずの離合集散で走り回っている。 ボードには今日の家宅捜査先が並んでいる。
(しかしあの食堂に寺本直子が来ていた。 となると家で殺されていたのは誰?) 芳太郎はさっきから同じ疑問を繰り返している。
どう考えても解けるはずは無い。 諦めた彼は窓の外に目をやった。
 もうすぐ夏である。 この署に配属されてから数か月。
何や分らんうちに寺本直子に掻き回されているような気がしてならないのだが、、、。 あのロータリーでの刺殺事件しかり、寺本直子が殺されたというあの事件もしかり。
そして川嶋伊三郎が狙われた事件もしかりだ。 誰が誰を狙って何のためにやっているのか?
右に回れば左で事件が起き、左に回れば右で事件が起きる。 複雑怪奇な無限回廊に放り込まれたような気さえする。
 今日も課長はにこやかに電話を受けている。 「ああ、そうですか。 分かりましたよ。 ありがとうございます。」
彼はいったい誰に会釈しているのだろうか? もちろん今は分からない。
 芳太郎は深い思いに沈みながら部屋を出るのである。

 夕方、いつものように電車を降りると屋台の椅子に腰を下ろした。 「疲れてるみたいだねえ。 飲むかい?」
「ありがとう。 課長の上機嫌さの意味が分からなくてね。」 「こないだの事件も関係してるんじゃないのか?」
「無いとは言えないだろう。 水谷にとって邪魔だった木村刑事が消せたんだからね。」 「それは大きいかもよ。 謝礼だってすごいだろう。」
「たぶんね。 まあ私には関係無いからいいけど。」 「そうとも限らないかもよ。」
「そうかなあ?」 「あいつらはご一行様がお好きな連中だからねえ。」 今夜もナイター中継をやっている。
撃ったの走ったのとラジオは賑やかだ。 ロータリーのほうでもラッシュアワーが始まったらしい。
 電車が着くたびに駅から人たちが吐き出されてくる。 スーツもくたびれたサラリーマンが多いようだ。
その中でスーツケースを持った一人の男が辺りを伺いながら歩いてくるのが見えた。 「坂本宅麻だな。 何をしてるんだろう?」
芳太郎が注意深く見ていると、、、。 その男がいきなり蹲るようにして倒れた。
「大変だ‼ 人が倒れたぞ‼」 ロータリーは瞬く間に大騒ぎになった。
 倒れた男は胸のあたりから血を噴き出している。 「あれじゃあ助からんわ。」
「一発で仕留めるなんて凄腕のやつも居るもんだな。」 「それにしてもあの男はいったい?」
「坂本宅麻。 ずっと前に覚醒剤で引っ張ったことが有る男だよ。」 「また薬か。 世も地獄だなあ。」
 親父さんはロータリーを苦々しく見詰めながら肝を焼いている。 救急隊とパトカーがやってきた。
「おかしいなあ。 銃で撃たれているのに音を聞いた人が居ない。」 「サイレンサーだよ。 おそらくは相当に警戒してるはずだ。」
「でも何でこの男が?」 「薬でもめてたんだな。 川嶋だろう。」
「そうとも言い切れないかも。」 「そりゃあ水谷にだって売人は居るからね。」
 辺りはまたまた野次馬まで一緒になって大変な騒ぎである。 「ここはダメだなあ。 水谷にも川嶋にも狙われてる。 場所を替えたいな。」
「そうかい。 そのほうがいいかもね。」 芳太郎はまたまたラジオに聞き入っている。
 広島と阪神の試合らしい。 「ここでニュースをお伝えします。」
アナウンサーが割って入った。 「何だ?」
 「以前、寺本直子さん38が殺されたという事件をお伝えしました。 その後の警察の調べて殺されていたのは本人ではなく義理の妹 安川照枝さんであることが確認されました。」
「何だって? 安川照枝?」 「知ってるのかい?」
「私が寺本直子の家を見張ってた時に起きた事件だよ。」 「あんたも災難だなあ。 そんな現場に居たのかい?」
「詳しくは話せないがその時に男と女が家から数人出て行くのを見たんだよ。」 「その中に本人が居たんだなあ。」
 芳太郎はその日のことを思い出した。 あの弁当屋の裏から見てたんだよな。
殺人事件は弁当屋の親父さんが教えてくれたんだ。 そして本当に死体を見付けた。
それにしても義理の妹だとはね。 あそこまでのそっくりさんもそうは居ないだろう。
となると寺本直子が何のために妹を殺したのか?が大問題になってくる。 その謎解きはこれからだな。
 ロータリーでは依然として捜査員があっちこっちの情報を掻き集めている。 「こう何人も殺されたんじゃ堪ったもんじゃないなあ。」
「まったくだ。 やるほうもやるほうだが、やられるほうもやられるほうだ。」 男が蹲っていた辺りに一人の捜査員が立った。
「この辺りから撃ってきたのかな? となると銃はこの向きだな。」 彼が目をやった先には廃墟と化したコンビニが在る。
 その辺りに隠れられそうな場所は見当たらない。 となると何処から?
 彼はさらに辺りを見回している。 「この辺りで身を隠すにちょうどいい場所って?」
どう考えてもどう見ても想像できないんだ。 適当に陰になる場所などこの辺りには無いのだから。



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