春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
「……、あ」

 七さんは意を得たように声をこぼして、ふわりと優しい笑顔を浮かべた。

「いや、おそらく大丈夫だ。ヨシばぁなら起きてるかな。ちょっくら呼んでくるから、お前は落ち着いて横になってな」
「や、やだ。ひとりにしないで」

 腕にすがりついて離さないわたしを七さんはなだめるように頭を撫でた。

「大丈夫だから」
「でもこんなに血が」
「ちょ、いいから! めくって見せるな。わかってるから」

 七さんが連れてきたヨシばぁは、いくつかの布と小さな木箱を脇に抱えて現れ、居間の隅でわたしの身体を見るとうんと頷いた。
 衝立の向こうへ「七さんの言う通り、あれやったばい」と言って、わたしに向き直った。

「今日から大人の仲間入りばい」
「どういうこと?」
「これから月に一度、こういったことが起きる。女はみーんな経験しとーこと。ばってん、心配せんでよか。大人になった証ばい」
「わたし、大人になったの?」

 どうにも納得いかないというか、釈然としなかったのをよく覚えている。
 もう一枚の着物に着替え、汚れた着物を洗いに出て、桶を脇に抱えて戻ってきたところで、ヨシばぁと七さんの話し声が家のなかから聞こえた。
 開ければよかったのに、そのときはなぜか戸に手をかけたまま立ち止まってしまった。

「七さん、そろそろ嫁でも貰うたらどうばい」
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