春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 それから六年後ーー。

「見ろ。桜の花びらが流れてるぞ。山から下ってきたんだなぁ」

 七さんは五歳になる息子の手を引き、小川を指差した。
 春の日差しに水面が白く輝き、流れゆく桜の花びらが揺れながら流されていた。

「家じゃなく、ここでせんべい食っていくか。なぁ、お春」

 振り返った七さんはわたしと、わたしと手を繋ぐ三歳の娘を優しく見た。

「いいですね。今日は暖かいですし、そうしましょうか」
「よし。そうと決まれば、眺めのいいところを探すか」

 息子と娘がせんべいを食べるのを後ろから眺め、七さんがふっと笑った。
 きっと考えていることは一緒。

「お前さんたち、春を見送りながら食べるせんべいはどうだ? うまいか?」
「うまい!」
「んまい!」

 わたしたちは顔を見合わせて笑った。
 こうなる日が来るなんて、誰が想像できたかしら。

「おとうと、おかあは?」

 子供たちが手折ったせんべいのかけらをふたりで食べて、ふと小川を眺める。

「幸せだ」

 七さんが先に呟いた。
 気取ったふうでもなく、しみじみと。
 子供たちの視線がわたしに移り、わたしも深くうなずいた。

「幸せの味がする。とっても、おいしいわ」

 わたしは七さんへと微笑んだ。
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