聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「落ち着け。それじゃ腕が痛いだろう」
 蓮月の声で、三千花は思考を現実に戻された。組んだ腕に自分で爪をたてていたようで、少し痛んだ。

 そうだ。早く助けなくては。アルウィードが危ないのに。第一王子の行動など深く追求している場合じゃない。

「私が見た犯人がその屋敷にいたことにすれば」
「虚偽を元にした捜索などできません」
 ダウナルドが全面否定する。

「捜査は少しずつ積み重ねるしかないんだ」
 続けられた葉月の言葉に、三千花は苛立ちを募らせる。

「なんであなたはこの人たちの味方なの!」
 怒る三千花に、蓮月は体を後ろに引いた。
「味方とかそういうんじゃなくて……」

「命がかかってるのに!」
「聖母候補様、我々が手を抜いているとお思いか?」
 ダウナルドが言う。三千花を射抜くその眼力に気圧される。

「でも、私を異世界から呼ぶくらいには困っているのでしょう?」
「落ち着いてお待ち下さい」
 三千花は悔しくて唇を噛んだ。

 早く助けに行きたいのに、自分には力がない。特殊能力もないし、地位も権力もない。何も手札がない。

 ――いや、一つだけ、ある。

 三千花はダウナルドを毅然(きぜん)と見た。
 あとは覚悟を決めるだけだ。

「私が彼女の家に行きます」
 三千花は言った。ダウナルドの圧に負けないように、懸命に心を奮い立たせる。
 彼は怪訝(けげん)そうに視線を返す。

「聖母としてロレッティアさんを訪問します。これは捜査ではないし、違法でもありません」

 その言葉に、ダウナルドは顔をしかめ、顎を少し上げた。
 三千花は彼の目を真剣に見つめた。

 レオルークはそのやり取りを面白そうに見ていた。






* 第五章 終*







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