俺はこの幼馴染が嫌いだ

3話

 ガチャッと勢いよくドアを開け、俺は外に出た。

「おわっ! びっくりした!」

「あ、ごめん。驚かせるつもりじゃ……」

「あ、うん。分かってるから大丈夫だよ」

 焦りのせいか、開幕からやらかす所だった。
 何より、相手が優しいあゆで本当に良かった。
 それにしても、なんなんだこの可愛い生き物は!
 カメラ越しに見た時は全く感じなかったが、いざ対面してみると、胸元に書かれたよくわからない言語がおしゃれな白のTシャツにデニムを合わせた、まさにおしゃれな女の子って感じの服装をしている。
 適当に置いてあった緑のTシャツに、適当に置いてあった黒のズボンを履いている俺とは天と地の差だ。

「今日はお世話になります!」

「え、あ、うん……頑張るね!」

 頼りになるとはこういう事を言うのだろう。
 それから俺はあゆに連れられて、ウニクロに入った。
 あゆが言うには、ウニクロは学生に優しい値段で、いい品質の服が買えるらしい。
 なんて素晴らしいお店なのだろうか。
 ウニクロに入ってから、あゆが着てみてと言った服をひたすら試着した。
 俺の服のサイズについては、母さんからのLIMEに書いてあったらしい。
 母さん本当に色々とありがとう。
 あゆの持ってくる服はいちいちおしゃれで着るのも躊躇われたが、本当に楽しそうに服を選ぶあゆの顔を見たら体が勝手に服を着ていた。
 結局、あゆが選んでくれた色々な組み合わせの中で、最もシンプルな白のTシャツと黒のストレートという組み合わせを選んだ。
 選んだ理由は、これなら俺でも着れると思ったからである。
 あゆも満足そうにこう言ってくれた。

「うん、柚似合ってるよ!」

 しかしこの時、俺はこんなことを思った。

「今の自分に合わせたサイズを買ったら、すぐに着られなくなるのでは」

 そこで俺は、何を思ったのか2つも大きなサイズを購入した。
 あゆは不思議そうな顔をしていたが特に何も言ってこなかった。
 その後、1度家に帰り、その服を着てあゆの家に行った。
 当然ダボダボだったため、あゆの両親に大爆笑された。
 そんな思い出がこの服には詰まっている。

「よし、これにしよ」

 俺は白のTシャツと黒のストレートズボンを着て、あゆの家へ向かった。
 あゆの家は、俺の家から歩いて5分のところにある。
 たった5分の道のりだが、今の俺にとっては長い長い5分に感じた。
 あゆの家に着いてから3分程考えたあと、インターホンを押した。
 ピンポーンと音が鳴り、そのすぐ後あゆの声がした。

「は~い」

 その声を聞き、さらに緊張感が高まった。
 正直、今すぐ逃げ出したい気分だ。
 そんなことを考えていると、ガチャッと玄関のドアが開いた。

「お待たせしました……って、柚じゃん!」

 玄関から出てきた柚は、熊の刺繍が入ったエプロンを着ていた。
 ワンポイントの熊が柚の可愛さに嫉妬している。

「お、おう。今日はよろしくな」

 可愛さでこの世の頂点に立った柚に、俺は拙い返事で応戦した。

「ねぇ柚聞いてよ!」

「なに?」

 この話し方……どうやら柚はテンションが高いらしい。
 何か強力なパンチが飛んでこなければいいんだけど。
 さぁ、何が出てくるんだ。

「今日の夜ご飯ね、私が作ったんだよ!」

「え、まじで! めっちゃ楽しみ!」

 思わぬ右アッパーに、思わずリアクションをしてしまった。
 俺は柚が嫌いだ。
 だから、無駄に柚を喜ばせるリアクションをしてはいけない。

「あ、それより先に上がってもらわなきゃだよね。
 早く報告したくて忘れちゃってたよ、えへへ」

 あ~もう、可愛いなくそっ!
 だめだ、だめだ。
 ここは1度心を落ち着かせてっと。

「うん。それじゃあ、お邪魔します」

「はいどうぞ」

 俺は柚の家の中へ入った。
 柚の家の中は、中学生の時に来た時から何も変わっていなかった。
 懐かしい匂いもする。

「柚、こっちだよ!」

 柚に手招きされ、ダイニングに向かう。
 中に入ると、美味しそうなカレーと柚の両親がお出迎えしてくれた。

「あら、柚くんいらっしゃい」

「柚くん久しぶり。随分大きくなったね」

 あゆの両親は何ら変わりなく、優しい笑顔でお出迎えしてくれた。

「お久しぶりです。今日はお世話になります」

「いいのよ、そんなかしこまらなくて。
 それより、その服懐かしいわね」

「そうですね。着るのは中学生以来なので」

 あゆのお母さんはすぐに気づいたらしい。
 さすがはあゆのお母さんだ。

「ちょっと待って! その服って私が選んだやつだよね!
 私も気づいてたけど、もし間違ってたら怖いなって思って言えなかったの!」

 なんだ、やっぱりあゆも気づいててくれたんだ。
 俺はあゆが嫌いだ。
 小さな思い出も忘れない、そんなあゆが嫌いだ。
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