私は魔王!

奴隷市場

と、言う訳で人間国に初上陸した私は、見るもの全てが新鮮で口が開きっぱなしだった。

「アビステイル殿、ここが市場だ。大抵の物は揃う。あ、それは南国の珍しいフルーツだ。とても甘くて美味しいぞ。」

勇者は金色の丸い果物を一つ買って、小さくちぎって差し出した。

「ほら、食べてみろ。」

南国の珍しいフルーツなんて初めてだ。ワクワクしながら手を出すと、ひょいっと差し出したフルーツを引っ込める。

なんで?意地悪するの?

「ほら、口を開けて。」

ま、まさかの『あーん』か!!
コミュ障の私にはハードルが高すぎるっ!
しかし珍しいフルーツは食べたい!
今回を逃したら、もう食する機会はないかもしれない!
仕方がない、ここは腹を括って……

ぱくっ!

「流石、南国の珍しいフルーツですね。とても美味しいです。」

アランがシレッと言う。
ちーがーうー!なんでお前が食べるんだー!!

勇者も方眉が上がって、こめかみに💢のマークが浮き出ている…

「魔……アビス様、遊んでいる時間はありませんよ。ブレイブ殿、この奥にあるんですよね、奴隷市場が。」

うっ、そうだ観光で来た訳じゃないんだ。
キュッと口を引き締める。

「そうだ。この奥の倉庫にあるらしい。取りあえず、魔族の子供達がどのくらい居るのか確認しないとな。」

私達は賑やかな市場を通り越し、人がまばらになってきた場所を歩いていた。

「やぁ旦那。この先は市場は無いぜ?引き返した方がいいなぁ。」

ガタイのいい男が話しかけてきた。

「俺の主人が、市場に出回らない珍しい物が欲しくてね。」

勇者はガタイのいい男にニヤリとしながら、答える。なんだか悪役っぽいぞ。怖い。

「……どんな物が欲しいんだ?」

「例えば、角が生えてたり、肌が人とは違うもの…とかかな。」

「ついてきな。」

ガタイのいい男に連れられ、右に左に曲がりながら、細い路地を歩く。

着いたのは、一見程よい大きさの倉庫。

「珍しい物はなかなか値が張るっていうけど、大丈夫なのか?」

アランが懐から重そうな革袋を出す。

「ケケっ、問題ないみてーだな。さ、入りな。気に入るのがあればいいな。」

ガタイのいい男が、重そうな扉を開き私達を中へ促すと、外から閉めた。

「気に入ったものの番号を、奥の男に言いな。」扉の外から声がして、またケケケと笑いながら去っていく気配がした。

薄暗い中に大小様々な檻が置いてあり、異臭が漂っていた。

「くっ……この臭いは、媚香か。」

不愉快な臭いの中、檻の中を見るとそこには魔族の子供や、耳や尾のある獣人族の子供も居た。

「なんてことだ……」

檻の中の子供は、皆虚ろな目をしている。

「媚香?俺にはわからないが?」

「人間には嗅ぎとれない臭いだ。この香のせいで正気を保てなく、無抵抗にさせているんだな。」

ギリッと口を噛む。
こんな事がまかり通っていい訳がない。
無邪気な子供達を……

沸々と怒りが込み上げてくる。

「魔王様、いかが致しますか?」

「勿論、ここを潰すよ。」魔力が体から滲み出る。

「ん?あれは…どこかで見た顔だな。」

勇者が倉庫の奥に居る男二人を見て呟く。
背の高い男が、デップリした男に袋を渡している。
どうやら商談中らしい。

「ふざけるなよ、人間が……」

「待て!アビステイル殿!あの男が去ってからだ!」

今にも二人を攻撃しようと魔力を集めた手を、勇者がぎゅっと握り、後ろから抱き締める。

「うぎゃ!」

怒りで爆発しそうだったのに、恥ずかしさで自分が爆発しそうになる。

「(なななななななななななな何をするんだ!)何故止める。」

「あの背の高い男は宮殿で見た。王の側近だ。ここは敢えて逃がしてくれ。俺に考えがある。」

「(耳元で囁くな!動悸がハンパないんだよ!)……分かった。」

勇者はフードを深く被り、背の高い男が商談を終え帰る様子を見守る。

「おや、お客様。気に入った物はありましたか?」

デップリした男がニコニコしながら近づいてくる。

「ああ、みんな気に入ったよ。物じゃなく者だがな!」

デップリした男の体がドスンと音を立てて倒れる。

「魔王様、派手に行きましょうか!」












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