私は魔王!

勇者の決断

「……と言う訳でぇ、魔王様の護衛をお願いしたいのよ。」

いつものように、恒例になってしまって今や誰もおかしいという事を追及しなくなった勇者とのお茶会。
しかし、パティスリー・ロンのマドレーヌを持参した勇者は混乱していた。

「私達だと人間国は慣れてないから、迷子になりそうだし。勇者なら大丈夫かなって。」

「ま、今となっちゃここに勇者が居るのは慣れて、当たり前になってるしな。魔王様に害はないかってな。」

「……………………………私は魔王様に同行するがな。しかし、人間国は未知の地。しかたなく……、しかたなく!お前に頼むのが妥当だろうと。……本当にしかたなく………」

「あ、つ、つまり俺達の国に魔王を連れていけと?」

「そうよ。あー!もー!私も行きたいー!行く行く行く!!」

「ディーダは残らないとダメだろ?お前が魔族国を離れると、結界が崩れちまう。あれ一回崩れたら、復旧に結構な日数かかるんだろ?」

「バッ!バカかサイレス!!機密をペラペラとしゃべるんじゃない!!」

「あ、そうか。あははははゴメンゴメン。」

「……何も聞かなかった事にする。」

「お!悪いなぁ勇者。お前、やっぱ良い奴じゃないか。」

サイレスは旧知の仲のように、勇者の肩をバンバン叩いて笑った。

(いやいやいやいや、お前達、おかしくないか?毎回お菓子を持って来てくれても、勇者だぞ?距離感もおかしい。
敵に私の護衛を頼むのか?
いやいやいやいや、やはりおかしい。無理だろ。普通に考えて無理だろ。)

ワイワイとした輪に入れずに、アビステイルは部屋の隅のソファーに座り、心の中で突っ込みを入れていた。

先日、人間の商人が魔族の子供を拐って、奴隷として商品にしているとの事を知り、実状を把握する為に人間国に潜入することにした。

王としての責任と実力を考え、私が行く事にしたけど、人間国の事は全く分からない。
『じゃあ勇者に頼めばいいじゃない♪』とディーダの一言で決定してしまった。
ああぁぁぁ、冗談じゃない。
勇者と居ると落ち着かなくてイヤなんだ。
ソワソワするし、
動悸も激しくなる。
そらみろ、勇者も動揺してるじゃない。
まるっきりの友好の為に、お菓子を持ってきているんじゃないんだよね。

「もうよい。人間国には私が一人で行く。」

「それはなりません!魔王様お一人で行かせられません!私は必ずお供します!勇者なぞ頼らなくとも、私が御守り致します!!」

「……いや、俺が一緒に行こう。アランティーノ殿は人間国は慣れていないのだろ?それでは魔王をしっかりと護衛できないだろう。」

「ぐぐぐぐ…確かに慣れてはいないが、お前は信頼できない。」

何故か勇者とアランが顔を近づけて睨み合っている。

あぁ、面倒くさい。
この隙にコソッと部屋を出て行こうと、気配を消したら、勇者がキッとこちらを向いた。

こ、怖い!

「魔王殿、この勇者ブレイブが責任を持って貴女を守ろう。」

「(そんな責任、いりません)いや、人間のそなたに頼むことではない。私を倒せと命じられているのであろう?」

「確かに、国王からはそう言われ続けている。が、俺は俺の心に正直に生きたい。」

正直にって?

勇者は私の前までツカツカツカと歩いてきて、両手を取った。

「貴女を守りたいのだ。」

そして手の甲にチュッと口づけを落とした。

「きゃー!勇者ってば大胆ね!」

「き、き、き、貴様ー!何をしている!!!」

「おぉ、やるなぁ。」

◆◇〆%@*#§!!!!!!!!!!!!!!!

状況に頭が追い付かない私は、思考回路を一旦遮断せざるを得なかった………



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