私は魔王!

願い

人間国の勇者達の拠点である宿場。
その一室に魔王討伐メンバーが揃っていた。

「で、ブレイブが言いたいのって魔王討伐を止めるってこと?」

「そうだ、ミランダ。」

「ダメですよ!残虐非道な魔王をこのままのさばらしては、世界の為になりません!」

「ではマリアンヌ、魔王の残虐非道な行動とはなんだ?」

「子供達を拐って、他国に売りさばいていたり、村を襲って村人を惨殺したり、それと…」

「その数々の行動は、我々人間が行っていたことだ。魔王は逆に奴隷市場を制し、子供達を解放した。村人を惨殺したのは、盗賊だ。」

「そんなこと!なんでブレイブは魔王を擁護するのです!まさか本当に魅了の魔法に掛かって…」

「それはないよな?勇者のギフトがあれば精神魔法にはかからないもんな?」

「…一種の魅了なのかもしれないな。」

豊富な黒髪を、必死に撫で付けている深紅の瞳のかの方が脳裏に浮かぶ。

「おいおい、ブレイブ。そんなしまりのない顔をするなよ。」

「わたしは了承できないね。討伐が終われば、報奨だってたんまり保証されてるもの。
第一途中で止めたらアンが……」

「アンって誰ですの?」

「なんでもない!とにかくわたしは反対!絶対に!!」

ミランダはバンッ!と乱暴に部屋の扉を閉めて出ていってしまった。

「ブレイブ、みんなの想いは一つです。魔王討伐し、世界に平和をもたらさなければ。」

「魔王が悪と誰が決めた?その残虐非道な行いを自分の眼で確かめたのか?」

ブレイブは真っ直ぐにマリアンヌを見て静かに言った。

「わ、私は見てはいませんが、魔王のせいで酷い怪我の騎士達を治療したことはあります!それはもう酷い有り様で……」

「その酷い怪我の騎士は、本当に魔王から受けた傷なのか?」

「そ、そんなの…本人がそう言っていたので、間違いありませんわ!騎士ですもの!」

ふうぅ。と長いため息をつき、ブレイブが今度はデンを見た。

「俺は、報酬があれば魔王だろうが、目がいっちまってる国王だろうがかまやしない。」

両手を上げておどける表情のデン。

「本当に倒さなければならないのは、誰なのか。もっと考えて欲しい。噂や嘘に惑わされずにな。」

「……ブレイブは真の悪は他に居ると?」

ブレイブは肯定とばかりにミランダを見た。

「みんなあの国王に討伐が無事終えたら、"望みを一つ叶えてやる"と言われて、何を望んだ?」

「俺は郊外に広い土地と家。妻と子供達と牧場でもしようかと思ってな」
カカカカとデンが笑う。

「デン!?奥さんと子供が居ましたのー!?知りませんでしたわ…。」

「マリアンヌ、お前さんは何を望んだんだ?」

「わっわたくしですか!?……孤児院の増設……ですわ。」

「はっはー!嘘はいけねーぞ!ミランダが言ってたぞ。マリアンヌの言った望みは、素敵な貴族男性との結婚ーってな。」

「ちよっ!違っ!」

慌ててイスから立ち上がったので、机に置いてあったコップがガシャンと床に落ちた。

「で、そのミランダはなんだっけな?」

「…ミランダのことだから、財宝だとか金貨なんじゃないですの?」

赤い顔をプリプリに膨らませ、床を布で拭きながらマリアンヌが答える。

「それぞれの思い。と、願い…か。」

ブレイブは窓の外を眺めた。



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