私は魔王!
その頃魔王では………



「こらっ!ライアン待ちなさい!、」



「待てと言われて、待つバカは居ないよー!」



城の長い廊下を二つの影が疾走している。



「あらやだ、ライアンってばまたアランと遊んでる~」



結界の修繕の際に、瘴気をまとって倒れていた人の子をアビステイルは城に連れ帰り、治療を施した。名をライアンと言うらしい。



で、現在ではすっかり元気になり、三大側近相手にちよっかいをかけては遊んでいた。



「昨日はサイレスが落とし穴に落ちたわね。」

アビステイルはため息をつかながら、その光景を思い出していた。



「そうなのよ~まったく笑っちゃう~」



ディーダはケタケタと声をあげて笑い転げている。



「ディーダー!」



「え?なあに?」



ディーダが顔を上げると、ビシャッと音がして魔鳥の卵がクリーンヒットした。



「ラぁーイぃーアぁーンー…………」



「うわぁディーダが怒った怒ったー!」



「こんのぅクソガキがぁーーー!!」



疾走する影が3つに増えた。



「やれやれ、静かに過ごしたいのに、毎日毎日騒がしい……」



すると急に向きを変えて、ライアンがアビステイルの元に走ってきて抱きついた。



「アビー、二人とも怖ーい」



「それはそなたがからかうからであろう?

これ、頭をグリグリ押し付けるな。くすぐったい。」



「こらーーっ!魔王様に抱きつくんじゃないっ!!」



「魔王様、そのままクソガキ捕まえてて!」



「きゃーぁ♪」



「やだ怖ーい」



「ん?ムスタスもなんで抱きつくんだ?」



モフモフの尻尾がパタパタと動いている。



「このしがない第3者皇子!どさくさに紛れて、魔王様に抱きつくんじゃないっ!!」



「クソガキがぁ!観念しなっ!」



「アビー助けてー。きぁあ♪」



「アビー♪大好きー♪」



あぁ、勘弁して……



みなが騒ぎ疲れ、侍女がいいタイミングでお茶の用意をしてくれた。



「ねぇアビ。今日はブレイブ来ないの?」



「勇者か?毎日は来ないな。」



「でも好きな人には毎日会いたいでしょ?」



ブハッと盛大にお茶を吹き出した。



「な?何?」



「母様が言ってたよ?大好きな人にいつでも会いたいって。会えないと死んじゃうって。」



クッキーを食べる手を止めて、ライアンは呟く。



「父様は母様に会いに来ないんだ…。母様は毎日待ってるのに。」



「ライアンは母様好きか?」



「うん!大好き!優しく髪を撫でてくれるの。……だけど最近は泣いてることが多いの…。そうすると僕を……」



「……殴るのか………。」



ライアンの体には新古様々な大きさの内出血があった。



着ていた服はボロボロになってはいたが、元は高級な素材であっただろうと思われた。



貴族の子?隠し子とかか。

よくある話だ。



「人間の愛は薄くて脆い。生涯を誓った相手を簡単に変える。よくある話だ。」



ムスタスが吐き捨てるように言った。



「でもね、朝が来ると優しい母様に戻るんだよ。抱っこもしてくれるし、ぎゅっとも……」



大きな瞳からポロポロと涙がこぼれていた。



「ライアン…。」



私はライアンを引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。



「母様ぁ母様ぁ」



腕の中のライアンは

堰を切ったように泣きじゃくる。



私はただただライアンの綺麗な金髪を撫でていた。





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