カマイユ~再会で彩る、初恋
ガラスの靴


五月下旬のとある日。

「先生から連絡ないの?」
「小まめに電話やメールは来るけど」
「なのに、先生ロスなの?」
「だって……、もう二か月会ってないんだもん」

会ったと言っても、二カ月前に数時間程度。
夕食を一緒に食べながら、近況を報告し合っただけ。

十月上旬に突然『退職します宣言』を受け、年度末で教職を退職した先生は今、大手画材メーカー『芦田』の社長をしながら、財団法人『アシダ』の代表もしていて多忙を極めている。

日本全国を飛び回り、先週から海外で行われるアートフェスティバルの協賛会社の代表として出席している。
更には美術留学のサポート支援を行っている財団関係の仕事を同時にするとかで、半月ほど欧州を飛び回っているのだとか。

時差もあるし、不規則な私の勤務体制も相まって、完全にすれ違いの生活だ。

年度末で寿退社した千奈が、一カ月ぶりに遊びに来てくれた。
来月半ばに挙式を控え、ここ数日は朔也さんのご実家で花嫁修業をしているのだとか。

先生から貰ったポートレートをそっと指先で撫でながら、溜息を漏らす。
……会いたいな。

「そういえば、佑人からメール来たよ」
「あっ、私の所にも来たよ」
「金髪美女の彼女ができたっぽいね」
「うん、……幸せになって貰いたい」

ニューヨークに赴任中の佑人から送られて来た写メに、楽しそうに微笑む佑人と金髪美女とのツーショット写真があった。
『彼女』とは明記されて無かったけれど、好きでもない女性と気安く肩を抱くような彼じゃない。
見た目はワイルド系だけれど、性格は硬派そのものみたいな人だから。

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