カマイユ~再会で彩る、初恋
キス


エトワールホテルを後にした俺らは、近くのスーパーに寄って食材を買い、俺の自宅へと向かった。

「先生って、料理好きなんですか?」
「う~ん?一人暮らしが長いから好きというより、必然性に駆られてるだけだと思うけど。……何でそう思うの?」
「いや、……フライパンやお鍋が使い込まれてて、ガスコンロは男性にしては綺麗に掃除されてるなぁと思って」
「っ……、そんな風にチェックされたのか…」
「チェックというか……、婚約者がいると思ってたし、結婚しててもおかしくないと思ってたから」
「あぁ~そうだな」

キッチンで肩を並べて料理をする。
彼女がアボカドサラダを作ってくれている隣りで海鮮焼きそばを手際よく作りながら、他愛ない話をする。

「明日の出勤って何時だっけ?」
「十三時半です」
「十三時……微妙だな」
「……何がですか?」
「ビール誘うの」
「……一缶くらいなら大丈夫ですよ。まだ時間も早いですし」
「え、……いいの?」
「はい?何がですか?」
「飲んだら、送ってけないぞ?」
「あっ……」

こういうやり方はちょっと意地悪かもしれない。
誘導尋問のように返す言葉を強制的に絞るようなものだ。
でもそうでもしなきゃ、彼女を口説けない。

祥平が言うように、魔の手は四方八方から伸びて来る。
その魔の手を全て払い除けるには、少しくらい姑息な手段だって択ばざるを得ない。

「じゃあ、一缶だけ」
「おっ、いいんだな?」

わざと煽るように仕向けたら、殊の外嬉しそうな顔しやがって。
そういう顔したら、男はみんな味を占めるんだぞ。

「これ、ダイニングですか?それともリビング?」
「あっ、……ベランダにテーブルあるからそっちに」
「ベランダ?」

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