再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
小さな手を目いっぱい私の身体に巻き付けて、蒼斗は毎日そう言ってくれる。
力いっぱい抱きついてくる蒼斗からは『寂しい』という思いがひしひしと伝わってくるようだ。

蒼斗の気持ちは痛いほどわかる。
それでも、仕事を辞めるわけにはいかないから。


「ありがとう。仕事が終ったら、すぐ迎えに来るからね」


玄関先で蒼斗に手を振りながら、私は保育園をあとにした。

今度は、クリニックまでの道のりを1人で歩いて行く。
蒼斗を連れているときとは違ってスムーズに歩けるけれど、やっぱり寂しい。

寂しいのは、私も蒼斗も同じなのだ。
そんなことを考えながらクリニックへ出勤すると、安達さんも出勤したところの様で、職員出入口で履いてきた靴を揃えていた。


「おはようございます」

「あ、おはよう西野さん。だいぶ暖かくなってきて、出勤しやすいね」

「はい。蒼斗が道草するので、大変ですけど……」


「あははっ、それは大変だ」と笑いながら、中へと入って行く安達さん。
受付に入ると手際よく準備を進めていく。

最近では春が近付き、だいぶ発熱の患者さんは減ってきたけれど、季節の変わり目で体調を崩すお年寄りも多い。

マスクをしっかり装着し手指消毒をしてから、正面玄関を開けようと入口へと向かう。
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