再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
……もし。もしも、私のことが好きでもないのに結婚するのだとしたら。
『いずれは離婚する』と言われたら……。


「あっ……。もしかして」


ふと、再会した頃の高森先輩との会話を思い出した。
ぼやっとしか思い出せないけれど『両親からの結婚を迫られて』とかなんとか言っていたような気がする。

今回突然結婚の話を持ち出したのも、形だけでも結婚することで、両親からの催促を免れると思ったのだろうか。
それって完全に……。


「政略、結婚……」


呟いた言葉がやけに虚しく思えたのは、静かな部屋に1人だからだろうか。
こんな仕事をしている私でも、これが政略結婚かもしれないということが理解できた。

お金に困っている私は、高森先輩からの金銭面での保障。高森先輩はどんな形であれ結婚を済ませれば、両親からのしつこい催促もなくなる。

それだったら……愛なんてものは存在していないじゃない。

それでもきっと、高森先輩はこの結婚の話を進めるに決まっている。
先輩にとっては、メリットだもの。

そう思えば思うほど悲しくなって、その晩は久しぶりに涙を流して泣いたーー。


* * *

翌朝、枕元に置いてあるスマホの着信音で目が覚めた私。

眠い目をこすりながら画面を確認すると『高森先輩』と表示されている。
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