再会したクールな皮膚科ドクターは、元・売れっ娘キャバ嬢をまるごと愛で包み込む
父の提案に「確かに、彼女なら蒼汰にふさわしいわね」と、母も両手を合わせて賛同している。
俺はその提案には聞く耳を持たず、食後にと出された和菓子を口に放り込んだ。

炭本さんは、父のクリニックで勤務しているナースらしい。
詳しいことまでは知らないが、大手百貨店の社長の娘なんだとか。

親の企業を引き継ぐ気はないらしいが、いわゆる〝社長令嬢〟というやつで育ちもいいため、父は彼女の名前をよく出してくる。
俺は、まったくもって興味はないのだが。


「ごちそうさま。大学に戻ります」


父と母の結婚の話には一切触れず、俺は席を立ち玄関へ向かった。
俺のあとを追いかけて来た母は「蒼汰、炭本さんとの縁談、考えておきなさい」と言いながら玄関で見送ってくれる。

俺は母の言葉には返事もせずにスニーカーに足を通すと、少し大げさに玄関の扉を閉めた。


「めんどくさいな……」


ため息とともに漏れた、両親への本音。今の俺は、結婚になんて全く興味はない。
高校時代、大学時代に何度か女性と付き合ったことはあったが、忙しさからなかなか時間を取ることができず、いつも浮気されて終わった。

そんな女性への不信感が拭いきれない俺は、女性と付き合うどころか結婚すらも興味が薄れてきてしまった。
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