ねぇ、悪いことしよ?

体育祭準備期間

 衝撃的な出来事から早一週間。私の心は折れかけていた。

「実行委員さーん、これどこにおいておけばいい?」
「えっと、それは――」
「葛西さん、この作業終わったんだけど、次なんか手伝えることある?」
「じゃあ、これを――」
「葛西さーん、後で少し打合せさせて」
「はーい」

 そう、この調子でずっと話しかけられる。声が重なって聞き取れないこともある。そのおかげで最近は家に帰ると、底なし沼に入ったようにぐっすり寝る。
 いままでの実行委員会の人がこれを軽々やってのけたと思うと、本当にすごいことをしてくれていたのだと思う。できれば私と正反対の位置にいる、体育祭ウェルカムの人たちにやってほしかったと思うが、仕方がない。くじ引きの運命は運命だ。そこは割と割り切っている。
 だが、私はこの準備以上に頭を悩ませることがあった。

「せーんぱい、俺の話を聞いてください~」

 そう、この子犬のようになついてくる翼のことだ。
 どういうわけだか、この前の会議からやたらとなついてことあるごとに話しかけてくる。だが、私に彼の相手をする暇はない。やれやれ。うるさいのは嫌だから、少しだけ相手をしてやる。

「翼くん、どうしたの」

 そういうと花が咲くような笑顔を私に向けてウキウキで話し出す。

「今日さ、放課後時間あったらさ、本屋についてきてほしいです」
「なんで?」
「お勧めしたい本があるので」
「小説読んでる暇は誰かさんが実行委員長にしたせいで時間ないんですけど」
「ウッ。それはそれですって。と、とにかく、今日の放課後いいですか?」

 子犬がしっぽを振っているのを放置できるわけがない。

「いいよ」

 そういって今日は本屋についていくことになった。ちなみに、昨日はス●ッチャ、一昨日はカラオケ。さすがに疲れた。
 彼はなぜこんなにも元気なのだろうか。
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