小さなVoyageur
はじめての一人旅
ガラガラとパッションピンクのスーツケースを転がしながら、私は50年ぐらい前のフォークソングを口ずさみ、ひとり歩いている。

今日も、太陽は怒り狂ったように燃えていて、ご苦労さん。

いま、果たして何度なのかはわからないが、予報では真夏日だか猛暑日と聞いていた。

小さな駅で、乗り継ぎの汽車を待つ。

つい、いつもの癖でスマホを取り出そうとしたが、それも出来ない。

スマホは、敢えて電源を消って家に置いてきた。

駅舎には、私の他に老夫婦が一組居るだけだが、もしかして家出少女と思われているだろうか。

これは家出なんかじゃない。

貯金を崩して、はじめて一人旅に出ることにした…それだけのこと。

プライベートの旅行というと、2年前に仲間たちでキャンプをして以来だ。
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