【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜

29話:救世の闇





 地下の牢を出されたシャノンは、枷に繋がれた鎖を乱暴に引かれ、小さな舞台の上に連れてこられた。

 目隠しの袋を頭から被せられているので、細かい内装は把握できないものの、どうやらここは小さな劇場のようだ。

 なんとか二十人が入りきるぐらいの広さの客席には、小綺麗な服装に身を固めた貴族と思われる男女が各々座っている。

 ああ、とシャノンは思った。
 見世物小屋の劣悪な環境とは比べ物にならないが、おそらく用途は一緒。ここは秘密裏に違法商売が成り立っている場所だ。


「お待たせいたしました。皆さまお待ちかね、クロバナの毒素を浄化できると噂の、聖女でございます」

 先ほどまで双子たちに乱暴な言葉を浴びせ暴力を振るっていた男は、舞台にシャノンを引きずり出すと人の良い笑みを作った。
 男も客席の貴族たちもアイマスクをしているので素顔が完全に晒されることはなく、皆思い思いの反応をしてシャノンに視線を向けている。

「過剰有毒者の皆さまは常日頃、人の何倍もの毒素の影響に怯え苦しんでいたことでしょう。しかしご安心ください、この聖女は闇使いの吸収とはわけが違う。癒しの力をもってして浄化を使えば、毒素の影響そのものを受けにくくする特別な効力を持っているのです」

 男の言い草は、シャノンが毒素を浄化できると断言している。
 まだ実際に見せてもいないのにここまで豪語するということは、シャノンがいた見世物小屋に出入りしていた人間の生き残りか、そうでなくても元から事情を詳しく聞いていた人物だろうか。

 そもそもあの見世物小屋の襲撃は、ヴァレンティーノ当主であるダリアンが直々に出向くほどのものだった。ルロウを含めてあの場にいたのは幹部に属する者たちであり、そこから情報が漏れるというのは考えにくい。

 それに情報というのも、シャノンが聖女で、クロバナの毒素を浄化していたことを把握していたのは、ダリアンとルロウだけ。後にハオとヨキにも知らされたことだが、そのほかのヴァレンティーノ家の人々にはシャノンが聖女だと知らせず、ルロウの婚約者とだけ話していた。

 見世物小屋を管理していた人間たちはもう全員この世におらず、客として来ていた人々についてはヴァレンティーノの名のもとに始末、または口外禁止の措置を取るなどして対処を終えている。
 もし、それでもどこかで「毒素を浄化できる聖女がいる」という噂が流れたとしても、それがシャノンだと突き止めるのには、判断材料が少ない。

(……そうだ。カーターが、まるでその場にいたようなことを言っていたけど)

 見世物小屋では必ず顔を隠していた。だが、足首の傷までしっかり隠されていたかといえば、そうではなかった気がする。

 もしカーターが何らかの形であの見世物小屋で浄化するシャノンを目にしていたのならば、傷の位置からヴァレンティーノ家に身を寄せ始めたシャノンが同一人物だと気づくきっかけになったのかもしれない。

「おい、わかっているな」

 男がぼそっとシャノンに耳打ちする。
 いつの間にか目の前には、貴族の男が佇んでいた。

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