初恋は苦い思い出。でも出会うべく人と出会いました
 令嬢に声をかけられれば、いい顔をしていた俺だが今、声をかけられてもそんな余裕も時間も無い! 新人騎士の俺は学園が終わり次第練習場にまっしぐらだ! 

「ハリー・グレイヴス遅いぞ! 罰として二十周走り込み!」
「はいっ!」

 これでも真っ直ぐ来たんだけどな! なんて言ったら四十周になりそうだから口答えはしない。

 走り込みの次は木刀を持ち素振り千回。腕がパンパンになった。

 やっと休憩時間になり、汗を拭き水を飲む。

「ハリー・グレイヴス。ようやく顔が締まってきたな」

「ありがとうございます!」

 何か言われたらとにかく“ありがとうございます!”これが挨拶だ。

「入ってきた時は単なる顔だけで近衛志望の坊ちゃんかと思っていたが、思ったより根性がある」

「ありがとうございます!」

 上官に褒められた。

「追加で素振り百本だ!」

「……ありがとうございます」

「不服か? 追加で五十!」

「っありがとうございますっ!」

 走ってこの場を去った。上官が見ているから素振りでも力を抜けない! 


 その後訓練を終え、ヘトヘトになりシャワー室へと向かっていると俺の名前が聞こえてきたのでこっそり近くへ行き聞き耳を立てる。


「ハリー・グレイヴス頑張っていますね」
「そうだな。自信をなくすほど鍛えてやってくれと坊ちゃんから言われている」

「あれ? 私は小公爵様からこの部隊に入れ鍛えてやってくれ。と言われましたが……」

 坊ちゃん? って誰だ。それに俺は小公爵様と面識などないのだが……


「坊ちゃんの婚約者に手を出そうとしたんだろう? ロワール領の大事な方に手を出そうとした罪は深い。私は引退後ロワール領に戻るつもりだ。亡くなられた奥様の様に優しい方だと聞く。あぁ早く引退したい」

「え! ずるいですよ。私もロワール領に戻りたいんですよ。早く息子が変わってくれないかな……」

「おい、おい。子供に無理させるなよ。世襲制じゃないからな」

「息子が騎士になりたいと言って騎士団に入ったのですから良いんですよ! あっ、そうだこれ、休みの届けです。花まつりがあるので休みますから!」

「それはいかんぞ! 私も休暇予定だ! 坊ちゃんの婚約者のご家族を招くんだから周辺警備の確認をしたい! 何かあってはロワール領の名に傷がつく!」

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