白い嘘と黒い真実
◇◇◇



「それじゃあ、今日もありがとうございました。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


それから、食事を終わらせて二人で後片付けをしてから、私は澤村さんにお礼を伝えて自分の部屋へと戻った。

彼との食事をずっと楽しみにしていたはずだったのに、今日はあれ以降殆ど会話がなく、味を感じる事が出来なかった。

そして、お互い隠し事があるという事実が明るみに出てしまい、若干の気不味さが残る。

何でだろう。
こんなはずじゃなかったのに。

昨日と同じように何気ない会話で盛り上がって、もっと彼を知ることが出来ればそれで良かったのに。

色々と変な欲を出しだか故に自爆して、墓穴を掘って、彼との壁を作った上に、刑事の目で見られてしまった事がショックで堪らない。
そして、そこに澤村さんの“疑い”が表れ出ていたことも。

昨日は信じてくれた喜びに浸っていたのに、一瞬にしてその関係性が崩れてしまったようで、虚しさで押しつぶされそうになる。

けど、これは職業柄仕方のないことだし、はっきり言わない私が悪い。

でも、澤村さんには申し訳ないけど、紗耶の大切な人だからこそ、尚更慎重に行動をしたくて、もっと高坂部長の事を知るまでは事を荒げたくはない。

ただ、今のままじゃ進展はあまり期待出来ないし……。

そう思った途端、ふと浮かび上がったある考え。


それなら、いっそのこと、こっちからも彼に近付いてみる?


……。 


………いやいや、偵察のためとはいえ、そんな真似出来るわけない。

紗耶に変な勘違いをされたくないし、彼の気持ちを弄ぶようなことも絶対にしたくない。
それに、澤村さんが警戒しているのに、私自ら近付くのもどうかと。


…………でも、そうすれば今以上に何か知ることが出来るかもしれないし、それで白黒付けられれば澤村さんに変に隠す必要もなくなるかもしれない。

あくまで仕事上での仲の良いお付き合いだけなら大丈夫かな?


…………。


……ああ、どうしようっ!!


おそらく、ここまで悩むのは人生初かもしれない。しかも、誰にも相談出来ず、自分一人で結論を出さなきゃいけないなんて。

でも、選ばなければ最善策を。
全ては紗耶の為に。

それから、暫く私は悶々としながら、気付けば日付が変わる頃までずっと頭を抱え続けていたのだった。
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