白い嘘と黒い真実

第9話．警察官失格～聖side～

「……はあ～……」

椎名さんと別れてから何だか変な疲労感が湧いてきて、思わず深い溜息が漏れ出た。

昨日は気兼ねなく話せたのに仕事の話になると、どうもスイッチが入ってしまう。
けど、おそらくこれはかなり大きな事案に繋がる可能性があると思うので小さなことでも見逃すわけにはいない。
下手すれば彼女の身に危険が及ぶかもしれないから。

なんて言ったって、あの”神谷組”が絡んでくるような案件だ。

しかも、その人間がわざわざ彼女に関与してくるということは、少なくとも椎名さんは暴力団の何かに関わっている。

どういった経緯で彼女と神谷組の人間が接触したのかは分からないけど、キーポイントになるのはその黒川さんの彼氏である“高坂部長”という人物の可能性が高い。


この前飲み会で彼女が話していた、休日に会っていた強面の取引先。医療関係の運送。
このフレーズを聞くと暴力団員の取引と臓器売買の話が連想される。

そして、椎名さんを狙うストーカー犯。
もし、これと関連するのなら、きっと相手は暴力団員と関係している人物かもしれない。
おそらく、彼女は気付いていないだけで、危険なところまで踏み入っている可能性がある。

あの高坂という男が彼女に近付くのも、何か意図があってのことだとしたら……。


ただ、これは全部俺の憶測に過ぎない。
何も証拠がない。
念の為田中に巡視してもらったけど、怪しい所は何もなかった。
会社についても調べたけど、裏取引の歴もない真っ白なものだ。
だから、捜査する糸口がない。
黒い何かがあるかもしれないのに、それが具体的に現れない限り何もできない。