白い嘘と黒い真実
◇◇◇



「…………てな感じで、全くコミュニケーションとってくれないんだよね。まあ、人間だし合う合わないはあるとは思うけどさ。でも、いくら何でもあそこまで拒絶することなくない?」

出勤してから更衣室で制服に着替えたあと、私は特大の溜息を吐きながら隣で髪を結ぶ紗耶に思いっきり愚痴をこぼす。

「うーん、そのイケメン警官の気持ちも分からなくないけど、確かにそれは少しキツいわね」

一応同情はしてくれたけど、何だか釈然としない紗耶の返答に私は眉間に皺を寄せる。

「けど、驚いたわ。あれ程好きだって言ってたから、まだ健のこと引き摺っているのかと思ってたけど、もう別の男の話をするなんて。あんたって直ぐ人信じる割には切り替え早いよね」

しかも、痛い所までつかれてしまい思わず顔を顰めてしまう。

「けど、それくらいで良いと思うよ。あんな男をいつまでも引き摺られるよりは、その警官と良い感じになってくれた方が私も安心出来るし」

「あ、あのさ私の話聞いてた?生理的に無理って言われたんだよ。それに、色々迷惑かけてるし。澤村さんと私がそんな関係になれるわけないでしょ」  

その上、話が変な方向へ進みそうになったので、私は慌ててそれを食い止めた。
相変わらず私を心配してくれる紗耶の気持ちは凄く有り難いけど、今回の件で相当懲りた為、暫く色恋話はあまりしたくない。

「分かってるって。冗談過ぎたわ。澤村さんにも申し訳ないよね」

そんな私の気持ちを汲んでくれたのか。あっさりと引いてくれたのは良かったけど、最後の言葉だけは聞き捨てならなず、悔しさのあまり頬を軽く膨らませた。


それから制服に着替えた後、自分のデスクに座って早速伝票整理を始めようとしたところ、係長から備品の在庫チェックをお願いされ、私は快く返事をして席をたつ。

備品倉庫は離れのプレハブ小屋にあり、空調設備はないので夏は暑くて冬は寒い。
けど、今は四月を過ぎた丁度良い季節であり、少し風も吹いているので作業をするにはとても有り難かった。

ひとまず、渡されたリストの内容を確認してから倉庫に向かうと、どうやら先客がいるようで既に扉が開いている中、私は特段気にせず奥へと進む。

「……分かりました。……はい。そのように手配します」

すると、どこからか男性の声が聞こえてきて、私は声の主を探すために辺りを見渡すと、奥の方で見覚えのある人の姿が目に留まった。

「それでは、……いつものでお願いします」

近付いて見てみると、そこには社長の息子である高坂(こうさか)部長が立っていて、何故こんな場所で電話をしているのか不思議に思いながら覗き見すると、丁度通話が終わったのか。こちらの方へと振り向いた瞬間ばっちりと目が合ってしまった。
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