白い嘘と黒い真実

第5話.謎の美女

一日の業務が終わり、仕事から帰ってきた私は、いつものようにスーパーで買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながら、献立に必要なものをキッチンに並べて早速夕飯作りに取り掛かる。 

ついこの間、母親から親戚のよしみで安く買った魚沼産コシヒカリ10キロを送られてきたので、早く消費する為にも今日のメニューは筍の炊き込みご飯と決めていた。

毎度贅沢なお米の仕送りはとても有難い限りだけど、量が量なだけに早く消費しないと鮮度が落ちてしまう。
毎日お弁当を作っていれば減りも早いけど、流石に一人で10キロはなかなかに骨が折るので、前に5キロでいいと母親に話している筈なのに、毎回10キロ送られてくるのは何か意図があってのことなのかと、最近になって疑い始めてきた。

とりあえず、今日も米料理を作ることにはなるけど、そろそろ米以外のものが食べたくなり明日は麺に浮気してしまおうかと思い悩み始めた時だった。

台所で準備をしていると、隣の部屋の扉が開く音がして、私は動かしていた手を止めてから耳を澄ませる。
ここのアパートの防音対策はそこまで強化されていないので、テレビの音や話し声は聞こえてこないけど、足音や物音は微かに聞こえてくるため、音の方角を探ってみると、どうやら左の部屋から聞こえてくる。

つまり、澤村さんが帰ってきた!


…………なんて。


まるで本当のストーカー犯にでもなったような気分に陥ってしまったけど、今日は今朝会ったあの桐生と名乗る女性のことを一早く報告するため仕方ないと。そう理由を付けて自分に言い聞かせる。

本当なら今すぐにでも伺いたいところだけど、それだと生活音めちゃくちゃ盗み聞きしてました感が出てしまい、また気味悪い目で見られてしまいそうなので、頃合いを見てから行くことにした。

その時、ふと思いついたある妙案。
ついでに、この大量のお米を澤村さんにもお裾分けしてみたら、もしかしたら彼も喜ぶかもしれない。
例え自炊しない人でもお米なら貰っても困らなそうだし、澤村さんも一時的に同郷で暮らしていたから、懐かしく思うかもしれないし、以前お世話になったお礼にもなるし。

何なら、これを機に良好な関係が築ける第一歩になるかも。と、最後には邪な考えが浮かんでしまったけど、とりあえず、ものは試しで持っていってみようと、早速ケースを引っ張り出してお米を分け始めた。
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