白い嘘と黒い真実
「あの、実は澤村さんに伝えておきたい事があって。今朝、澤村さん宛てに若い女性が訪ねてきてました。何やら”かみやの家の者”と言ってて、桐生蘭さんという方で、また今度伺うと言ってましたよ」

とりあえず、本来の目的を果たすためにも、私は傷心しながら今朝の出来事を話した途端、澤村さんの表情が一変した。

それは、今までに見た事がない程の険しい顔付きで、何か考え込むように一点をじっと見つめだし、言葉はなくてもそこから自ずと鬼気迫るものを感じる。 

「あ、あの……すみません!私うっかり澤村さんがここに住んでいる事をその人に教えてしまって……」

取り調べの時でもここまでの表情はしていなかったのに、一体あの女性に何があるのか段々と不安になってきた私は、全てを白状して勢い良く頭を下げる。

「いえ。それは特に問題ありません。確認せずとも既に向こうは把握済みでしょうから。……しかも“桐生”か……。最悪だな」

しかし、澤村さんは気にする素振りは見せず、気になるフレーズをいくつか発してきた後、深い溜息をはいたので、状況が全く理解出来ない私は益々頭の中が混乱してきた。

「椎名さん、その女に会ったのはその時だけですか?」

すると、唐突に訪ねられた澤村さんの質問の意図が読めず、首を横に傾げる。

「い、いえ。前に道端ですれ違った時ハンカチを落としてたので拾って渡した事が一回だけありましたよ」

そして、以前あった出来事を話したら、澤村さんの釣り上がった眉がぴくりと動き、眉間に益々皺が寄り始めていった。

「あの、その桐生さんという女性に何かあるんですか?」

先程から不穏な空気を漂わせている状態に、私は居ても立っても居られなくなり、思い切って踏み込んだ質問をしてみる。

「いえ。気にしないで下さい」

けど、何となく予想はしていたけど、これ以上の干渉はやめて欲しいと言わんばかりに、話を遮断されてしまい、追求する事が出来なかった。
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