白い嘘と黒い真実
本当に、紗耶が来てくれるのはとても嬉しくて有り難かったけど、こんな美女を飲み会に行かせる高坂部長の神経がよく分からない。

もし私が男なら、絶対に許可なんかしないのに。
これも、考え方の違いだと言われたらそれまでだし、大人の余裕ともいうのだろうか。

確かに、何でも束縛されるよりかは自由があった方がいい気もするけど、紗耶の嫉妬して欲しい気持ちは痛い程分かるので、私は釈然としない中、とりあえず仕事を早く終わらせる為にパソコンの画面にかじりつく。


「あ、椎名さん。これ、営業部の所に行って印鑑貰ってきてくれる?」

すると、作業に集中していると、またもや雑用を頼んできた課長に私は少し苛立ちを感じてしまい、密かに眉を潜める。

いつもなら快諾するところだけど、今日は一分一秒たりとも遅れはしたくないので、ペースを乱されるの勘弁して欲しい。

一応残業はない身分だからそんな心配はしなくてもいいのだけど、自分の中でのノルマはきっちりとこなしていきたいので、私はさっさと済ませようと席を立ち上がり課長から書類を受け取った。




「あ、椎名さん、お疲れ様」

それから足早に営業部へと向かっている途中、会議室から幹部達が出てくるところに丁度出会し、その中にいた高坂部長と目が合った。

「お疲れ様です」

この前のこともあり、ここで彼に会うのは非常に気不味さが残るけど、私はそれを表に出さないよう努めながら満面の笑みで挨拶を返す。

「なんか今日はいつもと雰囲気違うね。凄く可愛いよ」

それから、まさかの高坂部長から“可愛い”という最高の褒め言葉を頂いてしまい、一瞬にして全身が溶けそうな程の熱が込み上がってくる。

「ありがとうございます。一応身なりはきちんとしておこうと思って。……あ、でも本当にただの飲み会なので心配しないでくださいね!」

とりあえず照れる気持ちを抑えながら軽く受け流した後、変に誤解されてしまわないよう忘れずにフォローを入れておく。

「分かってるから大丈夫。紗耶のことよろしくね」

そんな思いを汲み取ってくれたようで、高坂部長は不快な表情を見せることなく笑顔でそう応えてくれた。
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