白い嘘と黒い真実
そうこうしていると、気付けばアパート前に到着し、私達は階段を登った後、各々の部屋の前で立ち止まり鍵を取り出す。

「それじゃあ、今日はありがとうございました。また機会が合えば一緒に飲みましょうね」

それから、別れ際に私は期待を込めて目を輝かせながら彼の方に視線を向ける。

「そうですね。あいつにもそう伝えときます。では、おやすみなさい」

そう言うと澤村さんは嫌な顔せず小さく笑って部屋の中へと入って行った。

私はその笑顔を見れたことが嬉しくて、暫くその場で佇み余韻に浸り続ける。

過去を打ち明けてくれてから、心なしか澤村さんとの壁が少し薄れてきたような気がする。

これからも彼のことを知ることが出来れば、もしかしたらもっと近付けるかもしれない。
そうなれば願ったり叶ったりだけど……。

私を見て辛い記憶を呼び起こしてしまうのであれば、やっぱり不必要に関わらない方がいいのかな……。

一歩前進した筈なのに、結局は元の位置に戻ったのではないかと思い始めた途端、舞い上がっていた気持ちが段々と萎んでいく。

とりあえず、私自身が嫌ではないということが本人の口からはっきり聞けただけでも良かったと。そう自分を励ましながら、部屋の中へと戻って行ったのだった。

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