白い嘘と黒い真実

第7話.半同棲


__週明け月曜日。


今日からまた長い一週間が始まろうとする朝は、何とも憂鬱になる。

というか、もう日曜日の夜からそんな気分に陥り、それをサ〇〇さん症候群と最初に名付けた人の視点はかなり的確だと思う。

うちの会社も、もう少しシステムを充実すればリモートワークが実現出来そうな気がするけど。
そのうち水曜日休みの週休三日制にならないかなあ……。

なんて。月曜の出勤前はくだらない事ばっかり考えながら、身支度を整え終えた私は玄関先で靴を履き、部屋の扉を開ける。
それから、外に出て鍵を閉める前に、ちらりと301号室の方へ視線を向けた。

……今日もダメか。

暫くその場で佇んでみるも、一向に扉が開く気配がないので、私は諦めて部屋の鍵を閉めてアパートの階段を降りる。

始めのうちは何回か出勤時間が被っていたけど、ここ最近全然合わなくなり、朝の楽しみが減ってしまうのがとても寂しい。

それでも、毎日凝りもしないで期待している自分が何だかバカみたいに思えるけど、既に玄関先で少し待つ事が癖付いてしまい、やっぱりどうしようもないなと。
日に日に澤村さんへの想いが強くなって、もう自分でもコントロール出来なくなっているのが良いのか悪いのか。
複雑な気持ちになりながら、私は深い溜息を吐いていつもの出勤経路を歩く。

その時、ふと何やら視線を感じた私は咄嗟に後ろを振り向くと、三十代ぐらいのビジネスバッグを持ったスーツ姿の茶髪男性と視線が合った。


え?何だろう?
また私挙動不審だったかな?


普段からよく感情が表にダダ漏れだと言われるので、一人の時に考え事をしていると、たまに周りから不審な目で見られることがある。
だから、おそらく無意識に顔に出てしまったのかと思うと、私は恥ずかしくなって逃げるように少し早足気味で職場へと向かう。



「紗耶、おはよう」

「おはよう、真子」

暫く歩いていると珍しく出勤途中で紗耶と出会し、駆け寄ると、紗耶も今日は機嫌が良いのか満面の笑みで挨拶を返してくれた。

「なんか久しぶりに明るい紗耶見たかも。ここ最近元気なかったから」

「うん。あの後田中さんに色々話を聞いてもらったら浮気の可能性は少ないかもって言われて。そしたら少し気が楽になったかな」

それから、安心したようにやんわりと微笑んできた姿にちょっと前の私なら素直に喜べたけど、澤村さんと話して以降今度は私が高坂部長に疑いを持ち始めてしまい、何だか複雑な心境にどう反応すれば良いのか一瞬戸惑う。

「良かったじゃん。それじゃあ、高坂部長とは順調なんだ」

とりあえず、不自然にならないよう私は精一杯喜ぶ振りをして紗耶に笑顔を向けた。

「うん。あとは秘密があるかもって話だけど、思い切って聞いてみたら今大きな新規契約に繋がりそうな案件を抱えてて、そのやり取りが大変なんだって教えてくれたの」

そして、晴々とした表情でそう説明する紗耶の話に、私は黙って耳を傾ける。

「それより、真子の方もあれから澤村さんと進展あったの?色々突っついてみたけど、彼全然動じなかったからどうなったのか気になって」

「へ?」

すると、急に話の矛先がこちらに向けられ、油断していた私は思わず変な声が出てしまった。

やっぱりあの時妙に絡んできたのは全部紗耶の戦略だったのかと苦笑いしながら、一先ず澤村さんの過去の話や高坂部長のことについては抜かして、あの後の出来事を彼女に当たり障りなく伝えた。

「澤村さんも次の飲み会には賛同してくれたし、また機会があれば一緒に行こう」

「そうだね。また何かあったら田中さんにも相談出来るし」

どうやら、紗耶の中で田中さんの株は一気に上がったらしく、こうして彼女を含めて彼等と親密になっていくのは心から嬉しいし、今の私にはとても心強い。

とにかく、何かあっても澤村さん達がいれば大丈夫と。そんな安心感に浸りながら、いつの間にやら話題は昨日見たドラマへと切り替わり、終始会話が途切れることなく私達は職場に着くまで喋り続けたのだった。
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