白い嘘と黒い真実
こうして通常業務に取り掛かる中、私は合間を見ては高坂部長の姿を探してみた。

もしかしたら、また偶然何かを目撃出来るかもしれないと。まるで探偵気分になりながら辺りを見渡してみたけど、今日は一度も彼と会う事が出来ず、がっくりと肩を落とす。

けど、冷静になって考えると、自分のこの行為がまるで部長のことを犯罪者の目で見ているようで、後味が凄く悪い。

疑う気持ちが生まれてしまったのは仕方ないけど、それでも高坂部長の人柄はとても素敵で格好良く、今も変わらず私の憧れの人だ。

だから、何としてでも白であって欲しいし、何よりも紗耶の未来の旦那さんになるような人であれば、尚のこと身の潔白を確かめたい。

そもそもとして、やはり疑うことは性に合わないので、早くこの疑心暗鬼から解放されたい。

一先ず、これ以上探してみても今日は無駄だということが分かったので、私は諦めて頼まれた備品を取りに、外にあるプレハブ小屋の倉庫へと向かった。



「あれ?」

すると、会社の入口付近でパトカーが止まっているのが目に留まり、もしやと思い近付いてみると、案の定。そこには制服姿の田中さんがうちの従業員とにこやかに会話をしていて、私も彼と話せる機会がないかその場で立ち止まった。


「田中さん、お疲れ様です」

それから、ようやく従業員との会話が終わったようで、パトカーに乗り込もうとしたところ、私はすかさず声を掛けて彼の元へと駆け寄る。

「あっ、椎名さんお疲れ。この前はどうもー」

田中さんはこちらの存在に気付くと、相変わらず人懐っこい爽やかな笑顔を振りまきながら、軽く一礼してきた。

「うちに来るなて珍しいですね。もしかして、何かあったんですか?」

田中さんに会えたことは嬉しいけど、ここへ来るということは何かよからぬ事件でも起きてしまったのか。私は少し不安気な気持ちでおずおずと彼を見上げた。

「ただの巡回連絡だから安心して。時々見回りに行くんだ。それじゃあ、次の所あるから」

そんな私の気持ちを和らげてくれるように、田中さんは穏やかな表情でそう答えてくれると、早々に話を切り上げ、パトカーに乗り込んで行ってしまった。

やっぱり、田中さんも忙しいんだ……。

本当ならもう少し会話をしたかったけど、足止めするわけにもいかないし、次があるなら仕方ないと。私は小さく肩を落として来た道を引き返す。

そういえば、ここに勤めてから警察がうちに訪ねて来る所を見たのはこれが初めてかもしれない。

もしかしたら、知らない所で何回かあったのかもしれないけど、こうしてたまに訪ねてくれるのはとても有り難いし、田中さん達の存在を身近に感じられるので凄く安心する。

とりあえず、戻ったらこの事を紗耶にも伝えようと私は上機嫌になりながら、備品倉庫へと足を運んだ。
< 97 / 223 >

この作品をシェア

pagetop