旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
 そんなとき母から思いもよらぬ提案を受けた。

「美咲、あんたお見合いする?」

 自分には縁遠いと思っていたその言葉に美咲はすぐに反応できなかった。お見合いだなんて、美咲にとっては遥か昔に行われていた風習のような、そんな認識だったのだ。

「……お見合い?」
「そうよ。いっつも出会いがないって愚痴ばっかり言ってるじゃない。偶然お見合いの話もらったんだけどどう? してみる?」
「現実にお見合いってあるんだ……」
「そりゃあ、あるでしょう」
「うーん、お見合いはなんか強制的な出会いって感じであんまり好きじゃないかな」

 美咲が憧れているのは日常生活の中で出会い、自然とその人に惹かれていくようなそんな恋だった。最初から結婚前提で出会いの場を設けるお見合いにはあまり魅力を感じられなかった。

「贅沢な……お見合いだって立派な出会いじゃない。今回の話だって、たまたま降って湧いたものなのよ。全然強制なんかじゃないでしょう?」
「うーん」
「別に会ってみて、ダメだと思ったら、断っても大丈夫よ? あんたのこと無理やり結婚させたくて言ってるんじゃないから。出会いがないない言うあんたにちょうどいいって思ったのよ。それにねー、お相手の方がとってもいい人だったのよ」

 母はお相手をすでに知っているらしい。こういうのは仲人を介してやるもので、親も大して知らない相手とするものだと思っていたから、美咲は少なからず驚いた。

「え、お母さん知ってる人なの?」
「それがね、お母さんが昔通ってたフラダンス教室にいらしてた方の息子さんなのよ。息子さんと二人でお出かけされてるところに偶然お会いしたの。もうその息子さんが本当に素敵な方でねー。お母さんが結婚したいくらいだったのよ」

 随分と母はウキウキしている。余程その人のことを気に入ったらしい。

「お母さん……お父さんが聞いたら泣くよ?」
「お父さんには内緒。でも、本当に素敵だったのよ。こう紳士的で、洗練された感じのとてもスマートな方だったのよ。年齢はね、あんたの五つ上で今二十九歳らしいんだけれど、二十代とは思えないくらい落ち着いてらして。お母さんもう感心しちゃって。思わず、娘にはこんな素敵な人とお付き合いしてほしいって言っちゃったのよねー」
「ちょっと何言ってるの、お母さん! なんか恥ずかしいんだけど」

 美咲は思わず大きな声を上げてしまった。自分のあずかり知らぬところで、自分の恋愛事情のようなものを話されるのは恥ずかしかったのだ。
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