溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

ため息をつきながら会場に戻ると、ちょうどウェイターがお酒を配っていたので一つもらってクイッと飲む。
考えても仕方ない。今は美味しいもの飲んで食べて、時が過ぎるのに耐えよう。
飲み食いに専念していると、いつの間にか社長が隣にきていた。

「飲みすぎじゃないのか?」
「そんなことないです」

社長に声をかけられ、グラスを取り上げられる。

「あっ、返して」
「だめだ。そんな赤い顔して飲ませられるか。もうすぐお開きになるから座って待っていろ」

近くの椅子に座らされて、水を渡される。
ちぇっ、ケチ。誰のせいだと思っているのよ。
立ち去る背中に悪態をついた。

「あれ、大丈夫? 酔った?」

頬を膨らませていると、ニコニコした男性が私に気が付いた。
若い……。真理さんの友人だろうか。
笑顔で隣の席に座ってくる。

「ご飯食べた? お酒はもっと飲む?」

馴れ馴れしい感じで話しかけてきて、少し不快に感じた。

「いえ、もう結構です」
「そう言わず、飲もうよ。あ、それとも二人で抜け出して飲みに行っちゃう?」

なんか、ノリが若い。
ついていけないなと思い、「連れがいるので」と立ち上がった。
男性は「まぁまぁ」と笑いながら行く手を遮る。

「少し話をするだけならいいじゃん?」
「よくねーな」

低い声がして、ハッと振り返る。
神野社長が男性を睨みつけながら立っていた。社長は背が高いので、自然と見下ろす感じになる。

「海斗さん……」
「勝手に連れて行こうとするのはやめてもらってもいいか? こいつ、俺のだから」
「あ……、はい」

男性は顔を引きつらせてすごすごと引き下がる。

「どうして……」

‘俺のだから’だなんて、シレっと言えちゃうのだろう。

「ちょっと目を離すとすぐこれだ。隙が多いんだよ、隙が」
「すみません。ちゃんと任務遂行いたします」
「そういうことじゃぁ……」

社長が眉をひそめて言いかけたとき、「神野」と声をかけられた。
立木さんが歩いてくる。周りを見ると、いつの間にかパーティーもお開きになったようでみんな帰り始めていた。

「今日はありがとうな」
「あぁ、改めて婚約おめでとう」
「彼女さんも、気を付けて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃぁ」

私たちが会場を出るのを、立木さんは笑顔で見送ってくれる。

「いい人ですね」
「悪い奴じゃないけどな。今日俺にパートナー連れて来いって言ったのも、女連れじゃなかったら、会場の女と自分の婚約者が俺に注目するかもしれないだろ。誰が主役かわからなくなるからだ。そういった余計な計算が思いつくタイプなんだよ」
「……要はあまり仲良くないと?」
「表面的には問題はないさ」

そういうものなのか?
社長はルックスにも恵まれているから、嫉妬とかもあるんだろうな。
男同士の嫉妬や複雑な感情を垣間見た気がする。

ホテルの出口に向かってロビーを歩いていると、足元が少しふらついた。
お酒を飲んだのと高いヒールを履いていたからバランスが少し崩れたようだ。

「大丈夫か」
「あ、すみません」

軽くふらついただけなのに、社長はサッと私の腕を掴んで支えてくれる。
そして、そのままスルっと手を繋いだ。

「こうしていれば転ぶ心配もないだろう」
「っ……、すみません」

小さな声で呟くしかできなかった。
社長の温かくて大きなごつごつした男らしい手に、ドキドキと心臓がうるさい。
まだ周りには社長の知り合いがいるもんね。まだ、恋人のふりをしなければ!
そうよ、最後まで気が抜けないんだから!
何度もこれは恋人のふりの一環だと自分に言い聞かせた。
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