お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
 普段は冷たい青みがかった銀の髪なのに、光を受けるとまるで髪の一本一本が燃えているようだ。煌めく髪と凜々しい顔立ちが相まった姿は、王弟時代の『(アンバー)(タイガー)将軍』という名を彷彿とさせる。
 二十三歳という若さにもかかわらず囁かれるふたつ名の通り、戦場においては破竹の勢いで敵を倒し、近隣の国にも勇猛と名を馳せている王だが――。
 ジッと扉の隙間から眺めていると、夜を連想させるような王の黒い瞳が、ふとオリアナの方を見つめたような気がした。
「えっ!」
 思わず、ばくばくとする心臓を静めるために、背中を向けてしまう。扉越しとはいえ、一瞬だけ視線が絡まったように感じたからだ。
(ひょっとして……覗いていたことに、気付かれたの?)
 いや、まさかと部屋の中に目をやれば、奥にあるシーツをかけられたベッドには、月光がなまめかしく横たわっている。ほのかな光の中に広がる白いシーツに甘い香りが焚きしめられているのは、これから行われるかもしれないことのための準備なのだろうが――。
「陛下、今宵はどの部屋の妃をご所望でしょうか?」
 聞こえてきた後宮長の声に再び扉を振り向けば、王は迷っている様子だ。
「陛下。お渡りのない妃に会うようにとの進言を、臣下から強く受けられたと伺いましたが」
「わかっている」
 後宮長の言葉に、しばらく考えていた王が、関節の太い人さし指をこちらへ向かってゆっくりと伸ばしてくるではないか。
「そこの――」
(えっ!? 本当に、私を選んでくださったの!?)
 ドキドキと扉の隙間を見つめる。
「陛下!」
 だがその瞬間、視界に入ってきた女性の姿に大きく目を開いた。
< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop