お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
 十年。思い続けて、やっとこんなに近くまで来た。昨夜など、扉一枚の距離に接近していたのだ。
「でも――後宮を出されたら、きっともうお目にはかかれないわよね?」
 後宮を出される女性の行く末の定番は、家臣への下賜だ。実家に帰されるのは、なにかその妃によほどの失態があったか、もしくは後宮勤めができないほど体調を崩して、特別に退出が許された時のみ。たいていは、王の温情として、功臣に下賜される道を辿る。
「相手が、妻が働くことに寛容な男性ならいいけれど……」
 一夫多妻制の国で、血統を重んじる家柄の男性に下賜されれば、正直あまり期待はできない。
 青空の下で風に靡く髪を押さえ、思わず笑いながら言葉が飛び出してしまった。
「こればかりは、どうにもならないわよねー!」
 もし下賜されることになった場合、残された方法があるとすれば、それは一緒に話していたオリアナがメイジーの分の罰も引き受けるくらいだ。それでメイジーが後宮に残してもらえるとは思えないが、先ほどなんとかなると励ました分くらいの責任は取れるだろう。少なくとも、挙げられるだろう候補の中で、一番悪い嫁ぎ先は回避できるはずだ。親族に多少の言い訳も立つに違いない。
「会いたかったな、ライオネル様」
 ずっと――ずっと十年間、もう一度会って話せるのを心の支えにしてきた。
 でも、もう二度と会えないのかもしれない。
 後宮に来てから半年。いつかは直接会えるかも。ほんの一瞬でも、待ち望んでいたように話せるかもしれない。そう思い続けてきたが、どうやら、もうその望みはないようだ。
「それなら――」
 柵に手をかけ、下を覗き見る。
 高い。きっと地面に叩きつけられれば、一瞬で死ぬだろう。
(でも――)
 視線を上げ、後宮の周囲を取り囲む塀の向こうを見つめる。
 六精宮の金に輝く屋根が、青空の下で目映い光を放っている。まるで、昨夜見たライオネルの髪のように――。
「それなら、最後くらいはやりたいことをしてもいいわよね?」
 どうせ、もうすぐ後宮を追い出されるかもしれないのだ。それならばと、柵を握りしめ、ぐっと身を乗り出す。
「せっかくここまで来たのですもの。したいことをやらせてもらうわ!」
 そして、ぱっと柵を乗り越えた。
 そのままオリアナの体は、後宮を囲む壁へ向かって、青い空の下を落ちていったのだ。
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