例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても

――硝子の靴を、履くだけの資格が、自分にはあったんだろうか。

これだけ大きなものを抱える心構えなんて、あっただろうか。

バス停までの道のり、沙耶の足取りは重かった。


「おう、沙耶ちゃん。今日はまた偉いビシっとした格好してんなぁ。駅まで?」
「う、はい。ちょっと野暮用がありまして……駅までお願いします。」


昼間は殆ど乗客の居ない、しかも結構長距離なバスの運転手とは、必然的に顔なじみになる。
勿論昨日も会っている。


「昨日の夕方は人生最後みたいな顔してたけど、今日もまた浮かない顔してるんだね。」
「毎日、予想していないことばっかり起きるので、疲れてしまって……」
「なんか大変なんだねぇ。じゃ、駅まで寝てるといいよ。着いたら起こしてあげるから。」
「いいんですか……?ありがとうございます。」


眠くはない。
眠くはないが、このまま一生眠り続けていられたらーそれが許されるならどんなにいいだろう。そう思いつつ、沙耶は運転手の言葉に甘えて、目を瞑った。







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