例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
石垣の秘書になる時に、坂月が見繕ってくれた服達は、結構着用した物で、返すのも気が引けて、かといってあんな立派な服を着ていく場所もない。
結局箪笥の肥やしならぬ、クローゼットの肥やしになっているのだが、その中にスーツが何着かあった。
それを思い出した沙耶は、母親の病院から自宅に戻ると、クローゼットに直行した。
「ええと……これでいいか……」
黒のパンツスーツ。
最初こそ、スカートの方が多かったのだが、喧嘩っ早い沙耶には、こっちの方が良いでしょう、と坂月が気を利かせて購入してくれたのだ。
サイズは勿論どれもぴったりだった。
それから少しだけ化粧をして、再び外出した。
広がる田園風景は、さっきと変わりない筈なのに、全く受ける印象が違う。
こんなにも、違う。
あんなに爽やかだった空気も、一気に淀んでしまった。