例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても

「邪念?………」


挙動不審な沙耶を目の当たりにした廣井は、一瞬口を噤んだが、直ぐに腕にした時計に目をやった。


「………では、必要だった書類も揃いましたし、急いで行きましょう!そうそう、先日も伝えたかと思いますが、秋元家は車を何台も所有していますから、使いたいものがあれば、持って行ってくださいね。」



言いながら、廣井は、門の目の前に停めていた自分のポルシェを指す。


「とりあえず今日は、私の車で一緒に行きましょう。」

助手席だけは絶対に嫌だと思ったが、後ろの席は思っていたより狭そうだ。しかし沙耶は迷わず後ろの席を選び、乗り込んだ。

「今回顔合わせする方々は、専務がお二人と常務がお一人、全部で三人です。社外や監査役などは今回は後に回します。」

運転しながら、廣井が情報を提供してくれるが、沙耶に理解できたのは、会う人は三人、ということのみだ。


ーーこんなことなら昨日のうちに坂月さんに頼めばよかったかな。



かといって秘書の仕事に戻るのは躊躇われる。

どんなに頭を働かせたって、憂鬱な気分は晴れないし、おまけに車窓から見える都心の空は、分厚い雲に覆われていた。



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