オレンジ色の教室で、告白しました。
告白します
午後4時10分。
夕焼け色に染まる教室の中で、私は何度も何度も深呼吸していた。誰もいない教室はシン、と静まり返っていてまるで世界に私しかいないみたい。
廊下の外、窓の外のグラウンドから他の生徒の声が聞こえる。放課後の学校は、色んな色に染まっていた。
大丈夫、あと少し。もう少しの辛抱だから。
私は自分にそう言い聞かせる。この想いを伝えたら、私の恋は終わる。最初から叶わないとわかっているんだから。
そうわかっていても、心臓は激しく脈打つばかりだった。緊張しすぎて涙まで出てくる。
まだ彼が来ていないのに。
落ち着いて……!
ーガラッ!
「悪い、遅れた」
誰もいないはずの教室のドアが開いた。その音にびっくりして思わず息を止める。
ドアの方に目をやると息を切らして教室に入ってくる男の子がいた。その姿を見て緊張が最高峰に達した。
「だ、だだ大丈夫!ぶ、部活お疲れ様!」
緊張しすぎて思いっきり噛んでしまった。
「ははっ。お前、相変わらずだな」
そんな私を見て笑う彼。程よく日焼けした肌に白い歯が見えてとてもかっこいいのだけれど笑うと可愛く見えるのは私だけだろうか。
サラサラのストレートの髪の毛、整った顔立ち、ほんのり日焼けした肌、部活で鍛えられたガッチリとした体型。
爽やかイケメンな彼は学校でも人気ナンバーワンと言ってもいいほど女子に人気だ。
「……で?話ってなんだよ?」
「あ、えっと……」
彼に見とれていると急に話しかけられ、あたふたしてしまう。そうだ。今日彼を呼び出したのは私の想いを伝えるため。
告白、するためだった……。
「あ、あのね、私の気持ち……聞いてくれる?」
「おう。ゆっくりでいいからな」
「……ありがとう」
何かを察したのか彼は真剣な表情になり、私と向き合ってくれた。その優しい仕草にキュンと胸が鳴る。
私、こういう優しいところが好きなんだ。入学式からの一目惚れで、クラスも一緒、更には席も隣で。私たちが仲良くなるのにはそう時間はかからなかった。
だけど私は人見知りが激しくていつも話しかけてもらってばっかり。だけど彼はそんな私を急かさないでちゃんと向き合ってくれて。
そんな優しい彼のことが大好きだった。
こんなに人を好きになるなんて思わなくて自分でも気持ちに戸惑ったけど恋をすると毎日が楽しくて。
でもそれ以上に苦しいこともたくさんあった。
人間関係に悩んだり、彼の人気さにヤキモキしたり。片想いって楽しいことだけじゃないんだと思い知った。
「あの……私……あなたのことが、好きです!入学式からずっと……。人見知りで何も出来ない私に優しくしてくれて、……っ、ごめん……」
「大丈夫、ちゃんと聞くよ」
想いを伝えてる途中から言葉が詰まって、涙が出てくる。思うように話せない。
私は昔からこうだった。
自分の気持ちを話そうとすると先に涙が出てしまう。言葉が詰まって上手く伝えられない。
だけど彼は私の言葉を待ってくれた。
それがどれだけ嬉しいことか。その優しさに今も、昔も何度も救われた。
「こんな私だけど……あなたに恋をしてるの。毎日会うだけで、見てるだけでドキドキする。あなたに、心を奪われたの。迷惑だってわかってる。だけどね、好きって伝えたかった。……最後まで聞いてくれてありがとう」
伝えたいことは全部伝えきった……と、思う。だけど私の1番の願いは、言えなかった。
にっこり笑って彼を見つめる。
ドキンドキンと心臓が痛いほど高鳴っている。こんなに自分の気持ちを伝えたのは初めて。どう、思ったかな。
「なぁ」
「はい……きゃ!」
不意に呼ばれて顔を上げる。
その瞬間、顔が近づいてくちびるに柔らかくて、暖かいものがあたった。
それは、彼のくちびるだった。
ほんの少し、触れただけの小さなキス。暖かくて、柔らかくて、私のくちびるを包み込んでくれた。
「俺、お前のこと好きだよ。なんでそんな自信ないの?俺の行動、分かりやすかったと思うけど」
「えっ……ほん、とに……?」
「ほんと。だからさ、本当の願いを言えよ。伝えたかっこと、もっとあるだろ?」
信じられない出来事がおこって状況が呑み込めない。だけど……私の胸の中は、幸せで溢れていた。
「あ、の……私の、彼氏に……なってください!」
「よく言えたな。その言葉、待ってた」
勇気をだして伝えた。これが、私のほんとの願い。気持ち……だった。
嬉しい。
私たち、両想いだったんだね。
「私で、いいの?」
「お前がいーんだよ。これからよろしくな」
「はい!」
誰もいない放課後の教室。
私は……好きな人に気持ちを伝えました。


