ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

29 思い出は燃えてなくなりました ※不快なシーンあり※

 クロエが屋敷に帰ると、今日も代わり映えのない、辛い現実が待ち受けていた。

 図書館でのユリウスとの楽しい時間の落差が大きくて、彼女の気持ちはみるみる暗く沈んでいく。
 屋敷の者たちとすれ違っても、挨拶どころか会釈すらなくて、皆、真正面だけを向いて歩いていた。相も変わらず、クロエのことは誰一人として見ない。

 ここに戻ると、自分は本当にこの世に存在しているのかと、途端に不安が襲って来る。
 もしかしたら昼間の出来事は全てが夢で、ユリウスは強い願望が見せた幻なのではないだろうか。
 ……そんな風に、恐ろしい考えが次から次へと浮かんでは、消えた。

(駄目ね、私ったら。もうずっとネガティブなことばかり考えてる……)

 クロエは、心の中のもやもやを振り払おうと、両頬を叩いた。
 継母と異母妹が来てからというもの、悪いことばかりが起こって、彼女の思考は深い暗闇に引きずり込まれるかのように、下へ沈んで行っている。
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