ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「お父様……」クロエはきっと父親を睨む。「酷いですわっ!」

「どっ、どうしたのだ……?」

 ロバートは一瞬ひるんだ。娘にとっても良い話だと思うのに、なぜ怒るのか。

「お父様は、私とスコット様が愛し合っているのをご存知ないのですか!? 恋人同士の二人を無理矢理に引き剥がすなんて、あんまりですっ!!」

 クロエの大音声の嘆きが響いて、部屋中にこだまするほどに静まり返った。
 彼女は目に涙を浮かべて懇願するように父を見て、父はおろおろと視線を彷徨わせた。

 気まずい沈黙のあと、

「そ、それは悪かった……。そうだな、お前たちは出会った頃から相思相愛だものな」

「そうです。ですので、今後も全ての縁談はお断りをしてください」

「分かった、分かった。正直言うと惜しいが……お前たちが愛し合っているのなら仕方ない。第三皇子殿下の求婚も丁重に断りの返事をしておこう」

「ありがとうございます、お父様。では、私はお先に失礼しますわ。スコット様に手紙を書かなくてはいけませんの。あとは家族水入らずでどうぞ、ごゆっくり」

 クロエは立ち上がり踵を返す。去り際に継母たちを目を落とす、母娘はなにやら意味深長に目配せをしていた。

(かかったわね)

 嫌悪感しか持たない婚約者のことを、あたかも心の底から愛しているかのように言ってみた。帝国の皇子の求婚をすげなく蹴るくらいに。

 きっとあの母娘なら、前妻の子に屈辱を与えようと、本気でスコットを奪いにかかるだろう。わざとらしいくらいに煽ってみたので、すぐにでも行動を起こすのではないだろうか。
 おそらく、スコットに対しても直接的に狙ってくるはず。

(楽しみだわ……)

 こうして、不穏な空気のままの晩餐は幕を下ろした。

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