ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「おねぇさまぁぁぁぁ……」

 ややあって、コートニーはやっと顔を上げる。
 小動物のように可愛らしかった顔は涙でぐしゃぐしゃで、ひくひくと引き攣らせていた。

「まずは涙を拭きましょう」と、クロエはハンカチを取り出して異母妹の顔を丁寧に拭う。

 すると、

「お異母姉様っ、ごめんなさいっ!! あたし、本当に知らなかったんですぅぅっ!!」

 にわかに、コートニーがクロエにひしと抱き着いた。

「えっ……と……?」

 戸惑うクロエに構わず、彼女は続ける。

「本当にごめんなさいっ! 全部あたしが悪いんですっ! あたし……平民だったから、貴族のルールなんて知らなくて…………!」

 またもや会場がざわついた。
 コートニーは、舞台の中心で明かりに照らされている女優かのように、大袈裟に嘆き悲しんだ声を上げる。

「あのね……平民では仲の良い家族間で貸し借りは当たり前なんです……。だから……あたし、早くお異母姉様といっぱい仲良くなりたくて、それでネックレスを……。あたしも、聖女だって言われているお異母姉様みたいになりたくて……だから…………」

「コ、コートニー……」

 クロエは、貴族たちの空気に変化の兆しが起こっているのを、ひたひたと肌で感じた。冷や汗が額に滲む。

 しおらしい妹。平民出身で、まだ貴族のルールを知らなかっただけ。異母姉に憧憬の念を抱き、親しくなりたい。
 それなのに、姉はそんな健気な妹の不名誉な噂を広めて……。

(これじゃあ、私が純真な異母妹をいびっているみたいじゃない……!)
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