ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

 笑顔の姉妹は、にこにこと微笑み合う。
 端から見れば誤解がとけて絆を深め合った姉妹……そのものだった。

 クロエは心の中で悪態をつく。

(最悪だわ……。これで、これから建前上は外ではこの子と仲良くしないといけないじゃない)

 仮に、再び彼女が社交の場で異母妹のことを悪し様に言うと、今日の出来事を思い起こされて、その矛盾を突かれてしまうかもしれない。
 そうなったら、慈悲深い聖女という看板が剥がれ落ちてしまう。だから、これからは仲良し姉妹を演じないといけないのだ。

(コートニーを社交界から追放する計画は練り直しね……)

 これで、差し引きゼロ。己からは下手に手を出せなくなったので、今後の異母妹の社交界での評価は彼女次第というところだろうか。

 もっとも、水面下では攻撃を続けるが……。



 クロエは一度顔を上げて周囲を見てから、

「これからも仲良くしましょう」

 もう一度、異母妹の小さな手をぎゅっと握りしめた。優しい姿を見せ付けるかのように。

「はい! お異母姉様! これからもよろしくお願いします!」

 コートニーも笑顔で手を握り返す。異様に力を込めて。

(最悪だ。結局あの女を貶めることができなかったし、これから社交界ではあの女の悪い噂を広めにくくなるなぁ……)


 二人の姉妹は「うふふ」と淑女らしくお上品に笑い合う。
 周囲にも彼女たちの穏やかな空気が伝播して、ほんわりと温かい気分になった。自然と拍手が沸き起こる。

 この場の誰もが、二人の本音を知る由もなかった。
 スコットでさえも。

< 271 / 447 >

この作品をシェア

pagetop