ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

57 プロポーズをされてしまいました!

 風の音だけが鳴っていた。


「っっ…………!!」

 クロエは一瞬で頭が真っ白になる。
 帝国の第三皇子……求婚……。それらは、彼女の世界からあまりにもかけ離れた言葉で、すぐには呑み込むことができなかったのだ。
 みるみる顔が上気する。しかし、体内は氷魔法でもかけられているような、痺れた感覚だった。

「クロエ」

 ユリウスはそんな狼狽する彼女に考える間を与えることなく、畳み掛けるように続ける。タンザナイトの瞳は、まるで彼の固い決意を表しているかのように、強い光を帯びていてた。

「いいか、この婚姻は君にとってもメリットが大きい。一番はキンバリー帝国が君の後ろ盾になるということだ。仮にジェンナー公爵家と婚約破棄になっても、君は更に強力な権力が付く。令嬢として名誉も傷付かないから、社交界でも大きな顔ができる。それに、辛い思い出の残る地を離れて、煩わしい家族のことなど忘れて暮らせるんだ。万が一だが、復讐でミスを犯したとしても、新天地でやり直せるんだ。だから――……」
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