ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「皆さん、本日はようこそお越しくださいました」

 屋敷の中庭で、華やかなガーデンパーティーが始まる。
 今日はかなりの規模だ。父親の意向で王都の有力貴族の子女のほとんどを呼んでいる。彼は、まずはクロエを使って、若い貴族たちを取り込もうという魂胆らしい。

(こんな姑息な真似を行なっても、もうパリステラ家は堕ちて行く一方よ、お父様……)

 父親に呆れながらも、外面の良い彼女は笑顔で客人たちを迎えた。
 一人一人に丁寧に挨拶をして、異母妹のお詫びと婚約破棄の報告をいじらしい様子で、眦にきらりと輝くものを浮かばせて言う。
 少し痩せて酷く悲しげな聖女に、貴族の子女たちはすっかり絆されて、労いの言葉をかけるのだった。

(彼女らも、逆行前はコートニー側に付いたのよね)

 クロエは令嬢たちと退屈な会話をしながら、ぼんやりと考え事をする。
 時間を巻き戻る前は、継母と異母妹の策略で自分は社交界から遮断されて、おまけに不名誉な噂まで流されていた。

 あの頃は、ここにいる貴族たちも皆、天才魔導士であるコートニーの派閥だった。
 それが今では全員自分の味方だ。

 きっかけは、ほんの些細なことだった。
 ちょっとだけ元婚約者と異母妹の関係を仄めかしただけだ。

 なのに、いとも簡単に動向が変化するとは。貴族とは雰囲気に流されやすく、意外に与し易いのかもしれない。
 もしかすると、またリバーシみたいにひっくり返って、自分が窮地に陥る可能性だってあるかもしれない。

 ……そんな危うい綱渡りを想像すると、今、自分が父親の命令で動いている無駄な努力が滑稽で、なんだか笑えてきた。



 ロバートの計画通りに、お茶会は和やかに過ぎていく。

 クロエは最初は渋々だったが、貴族たちの信頼を一旦取り戻すのも悪くないと考え始めていた。
 なぜなら、落差というものは大きければ大きいほど、その衝撃も激しいからだ。失ったものが大きなほど絶望も深い。
 だから、このまま父を喜ばせるために、尽力するのも楽しいかもしれない。

< 380 / 447 >

この作品をシェア

pagetop