ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

81 魔力の暴走

 あんなに収縮してしまったパリステラ侯爵の陣地は、みるみる回復していく。

 彼は他の者の魔力を押し退け、分捕って、風に吹かれた蝋燭みたいに簡単に消した。
 轟く咆哮と、身体の奥から突き動かすような重たい魔力。それは大波のように瞬く間に神殿を包んで、人々を圧倒させた。
 凄い。桁が違う。これが魔法のパリステラ家……。彼らは純粋に彼の魔力を称えた。

(力がみなぎっていく……まるで限界なんてないかのようだ……!)

 ロバートは、かつてないほど興奮していた。全身が燃えるように熱かった。
 文字通り、今の自分は無敵だ。細胞の一つ一つから魔力の粒が無尽蔵に湧き出て来るのが分かる。
 今なら、この国……いや、大陸中のどんな相手でも負ける気がしない。ここにいる私を笑い者にした愚か者どもを、全てを蹴散らしてやる。

 彼の魔力は魔法陣の全てを侵食していく。あの高名な公爵家も、いけ好かない侯爵家も……全てが彼の魔力に書き換えられていった。

「ははっ……!」

 思わず、笑みが溢れる。
 愉快でたまらなかった。そうだ、この際だから今年はパリステラ家の魔力のみで結界を張ってしまおう。そうしたら、王家だって我が家門に頭が上がらないはずだ。

「おい、やめろ! これ以上は――」

「うるさいっ! 低魔力の者は黙ってろ!」

 隣にいる公爵が、微かな異常に気付いて彼を止めようとするが、彼は一喝して目の前の仕事に集中する。
 あと少しで全ての己の魔力が魔法陣を制圧する。家門だけが立派な、低い魔力の持ち主なんかに邪魔されたくなかった。

 今や彼は、魔法という悪魔に取り憑かれたかのようだった。目は血走って焦点が定まってなく、歪んだ口元は愉快そうに震えている。その姿は、ぞくりと背筋が凍るような狂気じみた恐ろしさがあった。
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