ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

83 処刑

「なぜだっ……なぜ、魔法が使えなくなったのだっ!?」

 薄暗い地下牢で、もう何度目かも分からないロバートのひび割れた叫び声が響いた。

「私はっ……パリステラ家のっ……なぜ…………!」

 何度も、何度も魔法の放出を試みる。
 しかし、彼の身体からは、僅かな魔力の欠片さえも出なかったのだった。

 魔力の枯渇と比例して、かつては美丈夫だと言われていた彼の姿は、皺だらけの顔に、くすんだ白髪。それは老人のように変貌を遂げていた。

「なぜ……なぜ……」

 彼は鉄格子に頭を持たれかけて、液体みたいにずるずると地面へと倒れていった。
 にわかに虚無感が彼を襲う。

 分からない。

 あの儀式の日、身体中から魔力がみなぎっていた。それは、底が知れないくらいに無尽蔵に湧いてきたのだ。
 無敵状態で、己が歴代のパリステラ家の中でも一番の魔導士だと確信した瞬間だった。

 なのに…………。

(過去に魔力が枯渇した例は……)

 硬い石の床から背中に向かって、冷たさが伝う。
 すると彼の頭の中も、少しは冷えて平静になった。

 死んだ元妻は、ある日を境に突如魔力が枯渇してしまった。それから、二度と彼女に魔力が戻ることはなかったのだった。

 あれは、クロエが生まれて一月ほどたった頃だろうか。

 魔法の名門だからと婚姻した妻の突然の魔力の枯渇に、激しく失望したのを覚えている。
 ならば、母の魔力を娘が吸い取ったのではないかと期待はしたが、その娘も魔力ゼロの出来損ないだった。

 あのときの落胆はどれほどだっただろうか。
 こんなことなら、最初から政略結婚などしなければ良かった。
 それ以来、後悔はどんどん募っていって、自然と妻と娘を冷遇するようになった。

(まさか自分も魔力ゼロになるとはな……)

 思わず乾いた笑いがこぼれる。もう笑うしかなかった。魔法のパリステラ家が、なんという結末だろうか。

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