ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

13 婚約者には会えませんでした

 パリステラ侯爵家は完全にクリスとコートニーが支配していた。

 他の従者に対しては、これまでは前侯爵夫人から信頼の厚かったマリアンが、度を越した振る舞いをさせないように瀬戸際で食い止めていたのだが、その箍が外れると屋敷は混沌と乱れはじめた。

 使用人たちはクリスとコートニーに阿って、逆にクロエをあからさまに蔑ろにすることが多くなった。

「まだ魔法が使えないなんて、おかしいとおもっていたのよ」

「やっぱり、不義の子だって本当かしら?」

「コートニー様はもうあんなに魔法を使いこなしているのに、それに比べて……」

 メイドたちの悪口が聞こえる。
 最近はクロエが近くにいてもお構いなしだ。嘲笑と軽蔑の混じった声音に彼女は深い悲しみを抱いた。
 その中でも一番彼女を傷付けたのは、大好きな母親を謗るような言動だった。

(お母様が不貞を働くなんてありえないわ……!)

 自分のことはどうでもいい。魔法が使えないのは事実なのだから。
 でも、尊敬している母が、まるで罪人のように悪し様に言われるのはとても辛かった。

 ――母の名誉を回復させたい。

 クロエはその一心で、これまで以上に魔法の特訓に励んだ。
 来る日も、来る日も、朝から晩まで。
 日が高いうちは庭で実践を、日が落ちたら自室で魔術書で理論を。毎日、毎日……。


 それでも……彼女が魔法を使える日は、終ぞ訪れることはなかったのだった。

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